エラベノベル堂

妖蟲が乙女を貪る

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2章 / 全10

午後の日差しが蔵の小さな窓から差し込み、埃の粒子がきらきらと舞っていた。美咲は額の汗を拭いながら、棚の奥にあった木箱を引き出した。 「これは……」 黒塗りの木箱には、古びた紙が貼られ、墨で『開封厳禁』と記されていた。筆跡は荒々しく、書いた者の緊迫感が伝わってくるようだ。 「開封厳禁……開けちゃダメってことだよね」 美咲は箱を手のひらで覆い、その重さを確かめた。ずっしりとした重みがある。宗次に聞くべきか迷ったが、今は寺の用事で外出している。 「ちょっとだけなら、見るだけなら……」 好奇心が警告を打ち消した。美咲は指先で箱の留め金にかけた。錆びた金属が軋む音を立て、蓋が開く。 「うわっ……」 箱の中には、数枚の呪符が収められていた。だが、美咲が想像していたような仏教的なお札とは全く異なっていた。黄紙に描かれたのは、歪な人型の絵。いや、人ではない。触手のようなものが生えた異形の姿だった。 「何これ……気持ち悪い」 描かれた絵柄は、まるで何かを抱え込むような姿勢をとっている。触手はうねうねと曲がり、先端には丸い膨らみがある。美咲は無意識に後ずさった。 「でも……何か惹かれる」 奇妙な感覚だった。気持ち悪いと思っているのに、目が離せない。呪符の中央には見たことのない文字が記され、赤い染みのようなものが点々と散っていた。 「ただの絵だよね? 古いもんだし……」 美咲は手を伸ばし、一枚の呪符を持ち上げた。その瞬間、甘い香りが鼻をくすぐった。 「何の匂い?」 花のようでもあり、果実のようでもある。甘く、濃厚な香りが蔵の中に広がっていく。美咲は眩暈を覚えた。 「これ……ただの紙じゃない」 呪符の絵柄が動いたような気がした。触手がゆらりと伸び、描かれた異形の口元が歪んだように見えたのだ。 「想像のせいだよね……?」 美咲は呪符を箱に戻そうとした。だが、指が動かない。まるで紙に吸い付かれているかのように、指先から感覚が消えていく。 「叔父さん……」 呼びかけは声にならなかった。甘い香りがさらに濃くなり、美咲の意識を包み込んでいく。視界がぼやけ、世界が遠のいていく感覚。その時、蔵の奥から湿った音が聞こえた。何かが這いずるような、粘着質な音。 「誰かいるの?」 美咲は振り返った。だが、そこには誰もいない。ただ古い棚と壺が並んでいるだけ。 「気のせい……だよね」 そう言い聞かせながらも、美咲の心臓は早鐘を打っていた。箱の中の呪符が、微かに発光しているように見えたからだ。

2章 / 全10

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