エラベノベル堂

二人だけの味へ

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1章 / 全10

「悠斗くん、これすごく美味しい! 玉子焼きふわふわだし、出汁巻きっぽい味付けも最高」 奈々の大きな瞳がキラキラと輝いて、悠斗の弁当を覗き込んでくる。料理部の部室に、彼女の甘い声が響き渡った。 「ありがとう。たまに作るんだ」 咄嗟に口から滑り落ちた嘘。悠斗の心臓が早鐘を打ち始める。この弁当は実際には妹が早起きして作ってくれたもので、幽霊部員である悠斗自身の料理スキルなんて壊滅的なレベルだということは、彼自身が一番よく知っていた。 「えっ、悠斗くんが作ったの? てっきりお母さんか誰かかと」 「いや、俺も一応料理部だし。たまにはね」 調子に乗ってしまった。奈々は料理部きっての美人で、悠斗が密かに想いを寄せていた相手だ。彼女の笑顔を見たくて、つい大きな口を叩いてしまったのだ。 「じゃあさ、明日もお弁当作ってきてよ。交換したいな」 「えっ」 「だめ?」 「いや、全然。毎日作ってあげるよ」 奈々の頬がほんのりと赤らむ。その愛らしい反応を見た瞬間、悠斗は心地よい高揚感に包まれたが、すぐに冷や汗が背筋を伝い落ちた。どうやってこの嘘を乗り切ればいいのか。明日の朝が怖くてたまらない。 放課後、悠斗は誰もいない部室で包丁を握っていた。キャベツを千切りにしようとしているが、包丁が勝手に動いてまともな形にならない。 「くそっ、なんでこんなに難しいんだよ」 まな板の上には無残な姿になったキャベツが散らばり、指先には小さな切り傷がいくつもできていた。料理漫画で見たような美しい千切りには程遠い。 「あれ? 悠斗くん、まだいたの?」 背後から聞き慣れた声がして、悠斗は悲鳴を上げそうになった。慌てて包丁を隠そうとするが、時すでに遅し。奈々が不思議そうに近づいてくる。 「何してるの? ……って、そのキャベツどうしたの」 「い、いや、ちょっと練習で」 「練習? 悠斗くん、包丁の持ち方変じゃない?」 奈々が悠斗の手元を覗き込み、呆れたようにため息をついた。その瞳には、いたずらっぽい光が宿っていた。

1章 / 全10

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