窓から差し込む朝の光が、春菜の瞼を刺激した。身体が重い。節々が痛む。でも、それとは別に胸の奥に満足感が澱のように沈んでいる。昨夜の記憶が鮮明に甦り、顔が熱くなった。 「……信じられない」 自分に言い聞かせるように呟く。共用リビングのソファで、健人と――。あまつさえ、何度も絶頂を迎えたのだ。最悪で、大嫌いな男に。ドアが開く音がして、春菜は弾かれたように顔を上げた。健人が立ち尽くしている。手にはコーヒーのマグカップを二つ。視線が絡む。気まずい沈黙が流れた。 「……起きたか」 「見ればわかるでしょ」 「だよな」 健人がベッドの縁に腰を下ろす。春菜は毛布を胸まで引き上げた。 「そこ座らないでよ。自分のエリアにしなさい」 「……言うな、そういうの」 健人の声に、珍しく疲労が混じっている。春菜は昨夜、彼が何度も腰を打ち付けてきたことを思い出し、耳まで熱くなった。 「昨日のことは」 「忘れる」 「無理だろ」 「……そうね」 会話が成立しない。罵倒の応酬しかしてこなかった二人が、身体の関係を持った今、何を話せばいいのかわからない。健人がマグカップを差し出す。 「飲めよ。冷める」 「……ありがとう」 受け取り、一口啜る。温かさが喉を通って胃に落ちる。健人が唐突に口を開いた。 「ルール、変えようぜ」 「え」 「境界線の。越えてもいいことにする」 春菜は目を丸くした。 「何よ急に。今まで散々守れ守れって言ってたじゃない」 「お前が言ったんだろ。越えろって」 「言ってない!」 「言った。昨夜、何度も」 春菜は思い出し、顔を覆った。 「あれは……言葉じゃない」 「身体が言ってた」 健人の手が、毛布の上から春菜の太腿に触れる。熱が伝わる。 「……んっ」 声が漏れた。 「まだ痛むか」 「……うるさい」 「嫌じゃねえんだな」 春菜は健人の目を見た。いつもの苛立ちの光は消え、代わりに共犯者の色が宿っている。大嫌いな男。でも、身体の相性は最悪に良い。悔しいけれど、認めざるを得なかった。 「……変なルールね」 「変でいいだろ」 「境界線、どうするの」 「消す」 「消さない」 「じゃあ、越えても罰則なしか」 「……それなら、まあ」 「渋いな」 健人が毛布を捲り上げ、春菜の身体を引き寄せる。 「ちょ、待って、まだ朝で」 「朝もいいだろ」 「疲れてるの」 「嘘つけ」 唇が首筋に触れる。春菜の抗議は、甘い喘ぎへと変わった。
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物件探しの抽選で因縁の相手・健人と同室になった春菜。パーティション一枚の狭い空間で繰り広げられる凸凹な同棲生活と、ある寒夜のアクシデントをきっかけに敵対関係から肉体的な相性へと溺れていく様を描く官能コメディ。




















