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2章 / 全10

翌日の夕暮れ時、大学の練習室に再び四人の姿があった。昨日の不可解な現象を確かめるため、全員が協議の末、集合したのだ。 「昨日のあれ、本当にあったんですよね」 宏太がベースケースを床に置きながら、確認するように言った。 「俺、てっきり疲れからくる幻覚かと思ったんですけど」 「幻覚じゃないよ。私、正人さんの指の冷たさまで分かったもの」 琴葉がピアノの椅子に座りながら答える。 「私も気になってました。あの感覚、確かめないと演奏に集中できません」 藍がヴィオラをケースから取り出しながら、静かに提案した。 「実際に触れ合って、感覚が共有されるのか。科学的な実験みたいですけど」 「じゃあ、試してみよう」 正人がバイオリンを構え、演奏の体勢を取る。 「まずは普通に演奏して、途中から接触してみる。意図的にやったらどうなるか」 四人は頷き合い、譜面を開いた。冒頭の小節から音が重なり始める。しかし、やはりどこかぎこちない。個々の音は正確なのに、全体としての響きが浅い。 「ここだね」 琴葉が言い、ピアノの鍵盤から左手を離して、正人の背中にそっと触れた。 「うっ」 正人の肩が跳ねた。 「なんか、背中から琴葉さんの指の形が分かる……すごい変な感じ」 「私もです。正人さんの筋肉の緊張が、自分の体みたいに感じる」 「俺たちも混ぜてくださいよ」 宏太がベースを置き、藍と共に二人に近づいた。四人が輪になり、互いの肩や背中に手を添える。 「せーの」 演奏が再開された瞬間、世界が変わった。琴葉のピアノの音色が、正人のバイオリンを通して響いているような感覚。宏太のベースの重低音が、自分の胸の奥から湧き上がっているような錯覚。藍のヴィオラの甘い音色が、肌を直接震わせているような没入感。 「すごい……これ、すごいです」 藍の声が震えていた。 「みんなの音が、一つになってる」 演奏が終わっても、四人はしばらく動けなかった。汗ばんだ肌が触れ合い、互いの鼓動が伝わってくる。 「これ、映像撮りましょう」 宏太がスマホを取り出した。 「練習風景としてアップしたら、絶対になんか伝わるはずです」 「えっ、SNSに?」 琴葉が戸惑いを見せる。 「でも、恥ずかしい……」 「大丈夫ですよ。顔は映らないようにしますから」 宏太はそう言いながら、演奏する四人の後ろ姿を撮影し始めた。背中合わせで座り、互いの体温を感じながら音を紡ぐ姿は、奇妙なほど美しかった。アップロードから三時間後。 「ねえ、これ見て」 宏太がスマホの画面を三人に見せた。再生回数が十万を超えている。 「バズってますね。『この演奏、なんかエロい』『音が忍び込んでくる』ってコメントが凄い」 琴葉は画面を凝視したまま、呟いた。 「私たち、何か特別なものを作っちゃったのかな」 正人が彼女の肩に手を置く。その感触が、再び琴葉の中に染み込んできた。 「特別かどうかは分からないけど、続けてみる価値はあるね」 四人の視線が交差し、何か確信めいたものが共有された。それは言葉にするよりも深い、感覚的な了解だった。

2章 / 全10

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