扉が開くと、外の空気は厨房の火よりずっと素っ気なかった。石壁の内側にこもっていた匂いが一息で剥がれ、私は思わず袖口を握りしめる。初めて足を踏み出した城下は、賑わっているはずなのにどこか音を落としていた。荷車の軋み、乾いた呼び声、布を叩く音。そのどれもが細く、途切れがちだ。 私の隣を歩く護衛は、無駄口をきかない。大きな影が先を切り、通りの人間と魔族が、道を開けるように視線を外した。露店には野菜の代わりに硬い木の実や保存の利く豆が目立ち、肉を吊るす場所は半分ほど空いている。香辛料の壺も蓋が閉じたままで、客を呼ぶ声よりため息の方が近い。 最初に話しかけてきた店主は、私が厨房の者だと知ると、警戒を隠しきれない顔で肩をすくめた。 「最近は入ってこないんだよ。作物が育たねえってより、採れても妙に偏る。土が痩せたとか、そういう話じゃ片づかない」 別の店主は、棚の隅でしなびた葉を摘まみ上げた。 「北の畑はよく育つのに、南はさっぱりだ。水をやっても同じだ。前はこんなじゃなかった」 私は頷きながら、並べられた品を見て回った。欠けた樽、空いた袋、半端に残る根菜。どの店も困っているのに、困り方が同じではない。何かが土地の中で偏り、流れを奪っている。作物の出来不出来だけではなく、場そのものの癖が変わってしまったみたいだった。 「不作じゃない、か」 口にすると、店主たちの視線が少しだけ集まった。私は急いで続ける。 「完全に枯れている感じじゃないんです。育つ場所と育たない場所が、極端に分かれている。もしよければ、よく採れるものと採れないものを少し見せてもらえませんか」 彼らは顔を見合わせ、すぐには答えなかった。それでも、護衛の無言の圧と、私の手つきを量るような目線が交わるうち、ひとりが奥から小さな束を持ってきた。湿り気のある葉、乾きすぎた豆のさや、割れた香草の枝。私はそれらを指先で確かめる。香りの立ち方が違う。土の気配が、まるで片方に寄っている。 「手がかり、見つかったか」 護衛が低く言った。 私は束を包み直し、胸の内で確かめる。原因そのものはまだ見えない。だが、ただの空腹でも、ただの不作でもないことははっきりした。城へ戻れば、厨房でできることがある。ひとつずつ、記録して、比べて、つなげていけばいい。 夕方へ傾きかけた通りを見回し、私は抱えた包みに指を添えた。これが、次へ進むための最初の証拠になる。
魔王城厨房、和解は湯気の向こう
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