春の光が、私立桜咲女子高校の昇降口に薄く満ちていた。新しい制服の袖口をそっと整えながら、凛奈は立ち止まる。掲示板の前には、新学期のざわめきに押されるように生徒たちが集まっていて、その中心に貼られたクラス表だけが妙に白く目に刺さった。自分の名前を探す指先が少し震える。知らない教室、知らない顔、うまく笑えるだろうかと考えるたび、胸の奥が小さく縮こまった。やっと見つけた名前の横に、隣の席を示す番号が並んでいるのを見て、凛奈は一度だけ息を止めた。 「おはよう、凛奈ちゃんだよね」 明るい声に振り向くと、そこに愛梨がいた。朝の光を受けた笑顔は、初対面のはずなのに不思議と人を安心させる。凛奈が小さくうなずくと、愛梨は嬉しそうに手を合わせた。 「同じクラスなんだ。よろしくね」 そのまま流れるように、二人は教室へ向かった。窓際の席は、春の空がよく見えた。外では桜の枝が風に揺れ、まだ少し冷たい空気に花びらの名残が混じっている。並んだ机の前に座ると、凛奈は自分の呼吸の音まで大きく感じたが、愛梨は気にした様子もなく、名前の書かれたプリントを眺めながら軽く肩をすくめた。 「こういうの、ちょっと緊張するよね。でも、隣だし、たぶん大丈夫」 その言い方があまりにも自然で、凛奈は思わず目を伏せた。自己紹介の順番が回ってきても、声がかすれそうになる。けれど愛梨が 「好きなもの、ゆっくりでいいから」 と笑ってくれたおかげで、凛奈は少しずつ言葉をつなげられた。読書が好きなこと、静かな場所が落ち着くこと、派手なことは苦手なこと。話し終えるころには、教室の空気がほんの少しだけやわらいでいた。 放課後、凛奈は図書室へ足を向けた。初めての一日で疲れた頭を、静かな棚の並びに預けたかったのだ。窓から差す夕方の光は細く、机の上を淡く照らしている。目的の棚の前で手を伸ばした瞬間、同じ一冊を別の手も取った。 「あ、ごめん」 愛梨だった。驚いた顔のあと、二人は同時に小さく笑った。題名の横顔が、どこか二人の距離みたいに思えた。貸し出し前の手続きを待つ間、愛梨は本の背を指でなぞりながら言う。 「これ、前から気になってたんだ。凛奈ちゃんも読むんだね」 凛奈はうなずいた。言葉が少なくても、同じページを開く前の期待のようなものが、静かに近づいてくるのを感じた。棚の間には人の気配がほとんどなく、紙の匂いとページをめくる音だけがやさしく重なる。隣にいる愛梨の存在は、さっきまでの緊張を少しずつほどいていく。初めて会ったはずなのに、もう何度もここで話していたような、そんな不思議な居心地のよさが芽を出し始めていた。
夕映えの図書室、手をつなぐまで
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