エラベノベル堂

夕映えの図書室、手をつなぐまで

全年齢

小説ID: cmnehanr2000001nalsutksi4

10章 / 全10

文化祭のざわめきは、夕方になるほど熱を帯びていた。講堂の裏へ回ると、その喧騒は壁越しに遠のき、狭い通路には舞台用の布や木材の匂いだけが残っている。凛奈は胸元で進行表を押さえ、隣に立つ愛梨と目を合わせた。これが最後の確認だと思うと、指先が少し冷たくなる。それでも、愛梨の手がそっと伸びてきて、ためらいなく重なった瞬間、こわばりはやわらいだ。 「大丈夫。ちゃんと覚えてる」 愛梨は小さく笑う。凛奈も、同じようにうなずいた。噂を見聞きした視線は、今日もどこかにあった。それでも、逃げずにここまで来たことが、二人の足元を支えている。舞台へ向かう直前の静けさの中で、互いの体温だけが確かな答えだった。 呼び出しの合図が響くと、二人は同時に通路を出た。講堂の明るい光の下、舞台は思った以上にまっすぐに迎えてくれる。小道具は予定どおりに運ばれ、進行も乱れなかった。ひとつひとつが噛み合っていくたび、凛奈の胸にあった緊張は、少しずつ誇らしさへ変わっていく。愛梨が隣で自然に動き、凛奈もそれに応える。その様子は、もう隠すためのぎこちなさではなかった。 終わったあと、クラスメイトたちが口々に二人を呼んだ。凛奈は一瞬身構えたが、誰も探るような目では見ていない。ただ、無事に終わったことを喜ぶ顔ばかりだった。愛梨が笑い、凛奈もつられて笑う。そこにある距離は、以前のような気まずさではなく、気づけば当然のように隣にいるものへ変わっていた。噂は、二人のまっすぐさに追いつけないまま、いつの間にか薄れていく。 日が落ちると、校舎の上に残る空は深い群青に変わった。屋上へ続く階段を上がるたび、祭りとは違う静かな風が頬を撫でる。扉を開けた先では、街の灯りが遠く瞬いていた。愛梨は手すりの向こうを見つめ、凛奈もその横に並ぶ。言葉にしなくても分かることが、今はたくさんあった。 「これからも、一緒に歩こう」 愛梨がそう言うと、凛奈は迷わずうなずいた。 「うん。ずっと」 手をつなぐ。たったそれだけのことが、こんなにも心強い。風は少し冷たかったが、二人の間にある温度は消えなかった。凛奈は夜空を見上げ、これまでの不安も、嬉しさも、全部この先へ連れていける気がした。隣には愛梨がいる。だからもう、何も隠さなくていい。明るい未来は、きっとこの手の中から始まる。

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女子高生同士が、友人関係から少しずつ距離を縮めていく、甘酸っぱくて一般向けの学園ドラマ。

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