エラベノベル堂

吹雪の山小屋、告白は暁に溶ける

全年齢

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10章 / 全10

朝、吹雪は嘘のように収まっていた。戸を細く開けると、白い斜面の向こうに薄い青がのぞいている。真白は全員が見える位置に立ち、昨夜から拾い集めた事実を、今度は迷わず言葉にした。 今回の騒動は、誰か一人の悪意じゃない。蓮見は倉橋に過去を語らせるために計画書を書き換えた。野添は祖父の残した警告を伝えるために古地図を隠し、夜の危険を避けるためにランタンを使えなくした。由良は消えた記録の押し跡を確かめ、反対した人の声が本当にあったと示そうとした。ばらばらに見えた行動は、みんな同じ場所を向いていた。十年前の判断ミスを、今度こそ共有するために。 真白が話し終えると、誰もすぐには動かなかった。やがて倉橋が深く頭を下げた。 「責任を引き受けるふりをして、私は責任を分け合うことから逃げていた」 その声に、蓮見も顔を上げた。 「俺もです。去年の失敗を一人で抱えた気になって、結局また黙った」 紺野はしばらく黙っていたが、ふっと力を抜いたように肩を落とした。 「技術があれば勝てると思ってた。でも、黙られた時点で終わりなんだな」 由良が苦く笑う。 「姉はたぶん、正しかったかどうかより、止める声を出し続けることが大事だって知ってたんだと思う」 そのあと全員で小屋の裏へ回った。雪を払うと、半ば埋もれた古い金具と、赤く塗られた薄い金属板が現れた。だが板に刻まれていた文字は、誰も予想していなかった。 立入禁止ではなく、引き返せ 短いその言葉の下に、かすれた手彫りでもう一行だけ続いていた。 正しい道は、来た方にある 野添が息を呑み、由良は唇を震わせた。倉橋は目を見開いたまま動かない。十年前に残されたのは危険箇所の表示だけではなかった。先へ進むことより、退く判断こそ正しいと伝える、失敗した当事者たちの結論だったのだ。隠されたかったのは事故そのものではなく、進む勇気ばかりを称える空気の中で、退く決断を下せなかった弱さだった。 真白はその板を見つめながら、胸の奥で何かが静かにほどけるのを感じた。大会も、進路も、部の意地も、ずっと前へ進むことだけが正解みたいに皆を追い立てていた。けれど山が残していた答えは逆だった。 下山後、倉橋は十年前の経緯を大学へ報告し、記録を正式に残した。蓮見は主将を続けたが、最初のミーティングでこう言った。 「強い部になる前に、引き返せる部になろう」 由良は就職先へ進みながらも週末には顔を出すようになり、紺野は記録係として失敗談まで書き残した。野添たちの大学とも情報交換が始まり、合同山行の予定まで立った。 春、新入生歓迎の山で真白は最後尾を歩きながら、何度も後ろを振り返った。誰も置いていかないために。その列の先頭で、蓮見が振り向いて手を上げる。戻ることを知った登山部は、あの吹雪の夜より少しだけ強く、そして思いがけないほど穏やかに、再出発していた。

検閲済みプロット

大学の登山部が山行中に天候悪化のため山小屋に足止めされ、その閉ざされた環境の中で部員たちの秘密や行き違いが浮かび上がる、緊張感のある一般向け山岳ミステリー。

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