「文化祭、何やるか決めたか?」 優希は部室の机に突っ伏したまま、にやりと笑った。商店街の裏口にひっそりつながるその部室は、古いゲーム機の箱と配線の匂いが混ざって、いつも少しだけ冒険の前みたいな顔をしている。 「まだ決めてないの? 発明好きのくせに」 瑠菜が呆れた声を出す。制服の袖をまくり、棚の上に置かれた試作品の部品を指先でつついた。 「いや、今思いついた。絶対、目玉になるやつ」 「そういう顔のときの優希って、だいたいろくでもないけど」 「ひどいな。今回はちゃんと楽しい。人が見て笑って、ちょっと触りたくなるやつだ」 優希は身を起こし、机の端に広げたメモ用紙へ勢いよく書いた。 スライム行進曲。 瑠菜は一瞬きょとんとして、それから目を丸くした。 「なに、その題名」 「気になった?」 「……うん。すごく気になる」 優希は得意げに胸を張る。 「音に合わせて並んだり、跳ねたりするスライムの展示。見てるだけで気分が上がるし、参加もできる。文化祭の客寄せにはぴったりだろ?」 「たしかに、題名だけで引っかかるわね」 瑠菜は口元を緩めたが、すぐに表情を引き締めた。 「でも条件がある」 「出たな、瑠菜の条件」 「安全であること。楽しいこと。あと、勝手に増えたり、逃げたりしないこと」 優希は一瞬、視線をそらした。 「増えたりは……しない、はず」 「『はず』って何」 「いや、まだ試作段階だし」 瑠菜は腕を組んで、じっと優希を見る。その視線に負けて、優希は肩をすくめた。 「わかった。ちゃんと確認する。笑える展示にするけど、危ないのはなしだ」 「それなら協力する」 瑠菜はそう言って、机の上のメモ用紙を指で押さえた。 「この題名、嫌いじゃない。行進するなら、見てる人まで楽しくなるようにしたい」 優希はぱっと顔を輝かせた。 「だろ? じゃあまずは、どんな隊列にするか考えよう。音楽に反応して、きれいに並ぶ感じで――」 「その前に」 瑠菜が遮る。 「本当に安全なスライムか、見せて。いきなり大量生産はだめ。まずは一体、ちゃんとおとなしい子か確かめる」 部室の窓の外では、放課後の商店街に人の声が流れていく。優希は試作ケースを見つめ、少しだけ喉を鳴らした。 「……もし、思ったより元気でも?」 瑠菜はため息をつきながらも、口調はやわらかかった。 「そのときは、二人でなんとかする。面白いものを作るって、そういうことでしょ」 優希は、今度こそ嬉しそうに笑った。 「最高。じゃあ、始めようか、スライム行進曲」
緞帳の向こう、翠の喝采
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