「うわ、増えたら困るって言ったばかりなのに、最初から元気すぎないか、こいつら」 優希は作業机の上に並べた透明な小瓶を見比べて、思わず苦笑した。青、緑、桃色、金色。光を受けるたびに色の縁がゆらぎ、どれも手のひらに収まるほど小さいのに、じっと見ていると妙に存在感がある。 「見た目はかわいいのに、言い方がひどい」 瑠菜が肩をすくめる。彼女は棚から薄い板と小さな回転盤を取り出し、机の端に置いた。音に合わせて盤面がゆっくり揺れ、そこに乗せた試作品が跳ねる仕組みだ。 「かわいいからこそ、扱いは慎重に。ほら、リズムを弱めると止まる。強めると――」 「跳ねる」 「そう。で、並ぶ」 優希が手元の端末をいじると、軽い拍子が部室に流れた。すると青い個体が一歩、いや一跳ねだけ前へ出て、続けて緑がそれに倣う。桃色は遅れてふるりと身を震わせ、金色は妙にきびきびとした動きで輪の外周を回り始めた。 「おお、いいぞ。思ったより素直だ」 「素直、かなあ」 瑠菜は目を細める。 「ただ反応してるだけじゃなくて、少し合わせ方が違う」 彼女が指で軽く盤を叩くと、個体たちはぴたりと動きを変えた。まるで見えない楽譜を読み取っているみたいに、跳ねる高さも向きもそろう。 「見てると、なんか賢そうに見えるな」 優希が感心した声を漏らす。 その瞬間だった。 金色の一体だけが、ほかとは違う間合いで机の縁まで近づき、ぽんと軽く跳ねて戻った。偶然にしては出来すぎた動きだった。まるでこちらの様子をうかがっているみたいに、次の音を待っている。 瑠菜が首をかしげる。 「……今の、たまたま?」 優希は一拍だけ黙ったあと、すぐに手を伸ばした。 「たまたまでも、特別扱いはなし。みんな同じ条件で見る。ひいきすると、あとで面倒だろ」 「優希って、そういうところだけ妙に現実的」 「失礼だな。夢があるからこそ、管理も大事なんだよ」 そう言いながらも、優希の視線はつい金色の個体に吸い寄せられた。ひときわ賢く見えるせいで、他のより危なっかしく感じる。だが、だからといって余計な期待を乗せるのは違う。 瑠菜も同じことを思ったのか、静かにうなずいた。 「じゃあ、この子だけ見張るんじゃなくて、全体の動きを見る。行進曲っていうなら、主役は一匹じゃなくて全員だもんね」 「そうそう。展示は、みんなでそろってこそ映える」 優希は再び音を少しだけ強めた。すると色とりどりの小さな体が、机の上で波みたいに揺れ、ゆっくりと円を描く。薄暗い部室の中、その小さな行進は妙にきれいで、見ているだけで笑いがこみ上げてきた。 ただ、金色の一体だけは、最後までこちらを見ているような気がした。
緞帳の向こう、翠の喝采
全年齢小説ID: cmnei60wd000501rvhx29hq9k
