エラベノベル堂

雲上の塔、心を灯す結晶

全年齢

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1章 / 全10

朝の空には、鳥よりも小さな飛行機械がいくつも浮かんでいた。銀の羽根を震わせて郵便を運ぶもの、丸い胴体をきらめかせて果物を市場へ届けるもの、職人を乗せて屋根の修理へ向かうもの。町の人々は指先に灯した淡い魔法でそれらを操り、風を撫でるように進路を変えていく。その光景を、丘の上の古い家の窓辺から、リナは毎朝飽きもせず眺めていた。空を行き交う機械たちは、彼女にとってただの乗り物ではない。まだ見ぬ場所へ続く扉そのものだった。 祖母は縫い物の手を止めると、そんなリナの横顔を見ていつも笑った。 「そんなに遠くを見て、何を探しているの」 「宝物。伝説のやつ。雲の向こうとか、崖の下とか、そういう場所に隠れてるの」 リナが胸を張って言うと、祖母は細い目をさらに和らげた。 「じゃあ覚えておきなさい。本当に大切な宝物は、見つけた者の心を照らすものだよ」 その言葉は、夕暮れの窓に残る金色みたいに、リナの中へ静かに沈んでいった。 数日後、屋根裏の片づけを手伝っていたリナは、木箱の底板が少し浮いていることに気づいた。爪先で引っかけると、薄い隙間から黄ばんだ紙切れが現れる。端は焦げたように黒く、中央には山脈とも雲の流れともつかない線が刻まれていた。さらに紙の隅には、見覚えのない古い印と、かすれた文字が一つだけ残っている。 「北の風、三つ目の影」 声に出した瞬間、胸の奥で何かが小さく鳴った。ただの古紙ではない。そう思わせる不思議な重みがあった。 リナは地図の断片を抱え、その足で町外れの工房へ向かった。油と鉄の匂いが満ちるそこでは、同い年の少年トオルが、ばらばらにした飛行機械の羽根を組み直していた。彼は機械整備の腕で大人たちにも頼られる存在だ。 「見て、これ」 差し出された紙を一瞥したトオルは、工具を置いて表情を変えた。 「古い航路図の書き方に似てる。でも普通の地図じゃないな。風向きか、高度の印かもしれない」 「つまり、空のどこかに続いてるってこと?」 「たぶん。機械がいるなら、俺も行く」 言い方は素っ気ないのに、目だけはもう冒険の音を聞いていた。 もう一人必要だった。リナが訪ねたのは、町の見張り台によく登っている友人、ユノのところだ。彼女は一度通った道を決して忘れず、雲の形と日差しだけで方角を言い当てる。 「宝探し?」 話を聞いたユノは、風に揺れる前髪を押さえながら笑った。 「危なそう。でも面白そう。迷ったら困るでしょ。私がいれば帰り道までちゃんと見つけられる」 その頼もしさに、リナは思わず拳を握った。 三人は夕方まで工房にこもり、小型の飛行機械を整えた。細身の機体に補助翼を付け、荷物箱には水筒、乾パン、工具、予備の魔力石を詰める。リナは何度も地図の断片を開いては閉じた。期待と不安が入れ替わり、心臓が忙しい。 日が傾くころ、祖母が工房まで来た。叱られるかと思ったが、祖母は静かにスカーフを差し出しただけだった。 「空はきれいだけど、やさしい日ばかりじゃないよ」 「うん」 「それでも行くんだね」 リナは強くうなずいた。祖母はその額にそっと手を当てる。 「なら、心の灯りをなくさないこと」 翌朝、東の空が薄く明るむころ、三人は機体に乗り込んだ。魔法の光が操縦輪に伝わり、羽根が小さく震える。町の屋根が朝露を弾き、遠くの雲海が桃色に染まっていた。リナは振り返り、家々の向こうに立つ祖母の姿を見つける。胸の内で、あの言葉がまた静かに灯った。 宝物が何なのか、地図の先に何が待つのか、まだ何もわからない。ただ、今この瞬間、空へ向かう風は確かに三人のものだった。リナが合図すると、小さな飛行機械は地面を離れ、朝の大気へするりと滑り出した。憧れだった旅は、ついに本当の音を立てて始まった。

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