青い機体の一行は、リナたちを押しのけるようにして台座の前へ出た。先頭の青年は胸を張り、石に向かって言い放つ。 「ここまで来た証は実力だ。危険な空を越え、誰より先にこの塔へ着いた。宝は勝者にふさわしい」 その言葉に応えるように、塔の壁の紋様が一瞬だけ光る。だが次の瞬間、床を走った淡い線は途中で消え、開きかけていた扉は重く閉じた。さらに台座のまわりに風の輪が生まれ、彼らの足元を静かに遠ざける。拒まれたのは力ではなく、その使い方なのだと誰の目にも明らかだった。 青年は唇を噛み、今度は仲間の一人が前へ出た。 「名声だ。誰も知らない空路を見つけ、町に帰れば語り継がれる」 けれど結果は同じだった。塔は冷たいまま、少しも心を開かない。仲間同士の視線も次第に尖り、誰が先に入るか、誰の手柄にするかという言葉がこぼれ始める。その空気は、さっきまで助け合っていた岩棚の上よりずっと息苦しかった。 リナは三つの台座を見つめた。ひとりぶんの答えではなく、ここまで来た者たちの心そのものを量っているように思えた。トオルがそっと工具袋を下ろす。 「たぶん、すごいものを持ってるかじゃない。何を大事にして、どうここまで来たかだ」 ユノも小さくうなずいた。 「ひとりで言う言葉より、重なる声ってそういうことかも」 リナは台座の前に進んだ。胸の奥では、祖母の声がやわらかく灯っている。本当に大切な宝物は、見つけた者の心を照らす。その意味が、ようやく手の届くところまで降りてきた気がした。 「私の宝物は、まだ手に入れてない何かじゃない」 静かな声が塔の石にしみこんでいく。 「怖くても進めたのは、トオルが機械を守ってくれたから。迷わなかったのは、ユノが空を読んでくれたから。悔しい気持ちもあったし、先に行きたいとも思った。でも、ここまでの景色も、助け合った時間も、全部が私を前に進ませてくれた。私にとっての宝物は、この旅で結ばれた心と、支えてくれる仲間たちだよ」 すると台座の線が金色に満ち、隣の二つへなめらかにつながった。トオルは少し照れたように息を吐き、それでもまっすぐ言う。 「俺の宝物は、直した機械そのものじゃない。誰かを乗せて、無事に次の空へ届けられることだ。その相手がこいつらなら、なおさらだ」 ユノも続く。 「私の宝物は、帰れる道があること。そして、一緒に帰りたいと思える人がいること」 三人の言葉が重なった瞬間、塔の内部から鐘に似た澄んだ響きが広がった。壁の羽根と歯車と星の紋様が連動して回り、閉ざされていた扉が今度こそゆっくりと開く。奥には金銀の山などなかった。ただ、宙に浮かぶ透明な結晶が、朝焼けにも似た光をたたえていた。その輝きに触れたとき、リナは悟る。探していた宝は物の形をしていても、真実はそこに刻まれた願いのほうにあるのだと。塔は宝を守っていたのではない。宝にふさわしい心を待っていたのだった。
雲上の塔、心を灯す結晶
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