エラベノベル堂

雲上の塔、心を灯す結晶

全年齢

小説ID: cmneipmgc000201n3ugufply7

4章 / 全10

岩棚での応急修理を終えるころには、日差しは高くなっていた。青い機体の青年は、金の羽根章を胸元で鳴らしながら一度だけ頭を下げたが、その目の奥にはまだ譲らない色が残っていた。名を刻みたいという願いは、簡単には消えないのだろう。リナもまた、自分の胸に同じような熱が残っていることを知っていた。ただ、それはもう誰かを押しのけるための熱だけではなかった。 回廊の先は、空を裂いたような白い雲海だった。下も上もわからなくなるほど濃い雲の層のあいだを、一本の風の道だけが静かに通っている。地図の断片はここで淡く光り、焦げた縁の内側に隠れていた文字を浮かび上がらせた。 「ひらくのは、速き翼ではなく、重なる声」 リナが読み上げると、トオルが眉を寄せる。 「機械だけじゃだめってことか」 「たぶん、魔法の波長を合わせるんだよ」 ユノはそう言って、雲の揺れを見つめた。 「この道、風が歌ってるみたい。ばらばらに力を流したら、たぶん弾かれる」 三人は操縦輪と魔力石に手を添え、呼吸をそろえた。リナの光は明るく跳ね、トオルの光は細く確かで、ユノの光は穏やかに流れる。その三つが触れ合うと、機体の羽根に乳白色の筋が走った。すると雲が両側へゆっくり割れ、見えなかった道が現れる。まるで空そのものが、協力のかたちを確かめてから通行を許したようだった。 だが、その後方で青い機体も動き出す。青年たちは力強い魔法で雲を押しのけようとしたが、道はすぐに閉じ、機体を左右へ揺らした。先頭の青年が舌打ちし、仲間に指示を飛ばす声が風にちぎれて届く。焦るほど雲は厚くなり、彼らの進みは鈍った。 雲海を抜けた先に、塔はあった。雲の上へまっすぐ伸びる灰白色の石塔で、壁面には羽根と歯車と星を組み合わせた古い紋様が刻まれている。入口の前には丸い台座が三つ並び、その中央に結晶をはめる窪みがあった。トオルが森で見つけた金属板を取り出して置くと、塔全体が低く震える。石の扉は開きかけて、しかし途中で止まった。 足りないのだと、リナは直感した。地図でも機械でも、まだ最後の鍵ではない。台座の前に立つと、石に刻まれた文字が浮かぶ。 「ここへ至るまでに得たものを示せ」 リナは息をのみ、背後を振り返った。傷だらけの機体。油で汚れたトオルの手。雲の流れを読むユノの瞳。思えば、宝物へ近づくたびに、自分は何かを手に入れていた。未知の景色に震える心も、失敗しても進もうとする勇気も、競う相手を見ても見失わない優しさも。 「私が得たものは」 そう口にしたとき、遠くで青い機体が雲を突き抜けて現れた。青年たちは塔を見上げ、今度こそ先を越すまいと駆け寄ってくる。張りつめた空気の中で、リナの胸だけが不思議と静かだった。ここで問われる答えは、誰より速く言うことではないと、もうわかっていた。

4章 / 全10

TOPへ