閉店したはずの駅前のコンビニに、だけど灯りが残っていた。シャッターは下りている。看板も消えている。なのにガラス越しの売り場だけが、夜の底で一枚切り取られたみたいに青白く浮いて見えた。 櫂は自転車を押したまま足を止めた。アルバイトの帰り道、疲れでぼんやりしていた頭が、一気に目を覚ます。見間違いだと思いたかったのに、レジ横の明かりまでついている。 「……誰か、いるのか?」 返事はない。けれど、まるで入ってこいとでも言うように、入口の自動ドアが少しだけ開いた。 何だそれ、と思いながらも、櫂は吸い寄せられるように中へ入った。冷蔵庫の低い唸り、蛍光灯の静かなざわめき。店内は無人だった。雑誌棚も菓子棚も整いすぎていて、ふつうの深夜のコンビニにしか見えない。 「無人営業、ってやつか……いや、こんな時間に?」 独り言が妙に大きく響く。 レジの前に立つと、透明な表示板にうっすら文字が滲んだ。 未練。 櫂は眉をひそめた。 「値段じゃなくて、未練?」 そう呟いた瞬間、棚の前にあった缶コーヒーに手が伸びる。無意識だった。彼がそれを取った途端、表示板の文字が少しだけ濃くなった。 未練。 さっきより、はっきりと。 櫂は息をのんだ。嫌な予感が背中を走る。 今度は棚のパンを見た。レジ横のガムを見た。どれも普通の商品なのに、視線を向けるたび、文字が値札のようにふわりと浮かぶ。 未練。 未練。 未練。 「……冗談だろ」 喉が乾く。けれど、冗談にしては店が静かすぎた。誰もいないはずなのに、誰かに見られている気配だけが、背筋をなぞって離れない。 櫂は手にした缶をそっと戻した。すると、表示板の文字はすうっと薄れた。 彼はそこでようやく理解した。 この店は、ただのコンビニじゃない。 手を伸ばした瞬間に、胸の奥に残っている何かまで映し出す、そんな場所なのだと。
未明の値札に、ほどける人生
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