エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

小説ID: cmnenb7oo004j01n34751brjz

1章 / 全10

法廷の天井は、昼の光を薄く砕いていた。白い壁面に埋め込まれた端末群が静かに脈打ち、中央の演台には裁判記録を束ねる法廷AIヴェリタスの表示が浮かんでいる。相良は新人弁護士として、まだ自分の名前がこの重い空間に馴染んでいないことを知っていた。それでも、依頼人の横顔が青ざめるたび、背筋だけは真っ直ぐに伸びた。事件はすでに世間の注目を集めていた。被告に不利な証言が出るたび、ヴェリタスはその場で信頼性を解析し、まるで冷たい潮が寄せるように結論へ法廷を押し流していく。今まさに、証人の一人が語った内容に対し、画面には極めて信頼性が高いと表示されていた。傍聴席の空気が変わる。判決はもう半ば決まったかのように見えた。だが相良は、証言の最後に混ざった一語だけが耳に引っかかって離れなかった。言い切るべき場所で、証人はわずかに言葉を飲み込んだ。その沈黙は短い。けれど、長い橋の継ぎ目に生じた細いひびのように見えた。相良は記録端末を開き、証言の時刻と過去の供述を照らし合わせる。すると、ある場面だけ時系列のつながりが妙に滑らかすぎることに気づいた。人が思い出すときに生じる揺れがない。整いすぎている。まるで誰かが真実の輪郭を、見栄えのいい型に押し込めたようだった。陪席の検察官が小さく笑う。AIがそう判断したなら、疑う余地はない。周囲の視線も同じ言葉を含んでいた。だが相良の胸には、説明できない冷えが残った。事実は一つでも、そこへ至る道筋には必ず足跡がある。ヴェリタスが見ているのは本当に証言そのものなのか。それとも、証言を真実らしく見せる何か別の影なのか。相良は端末を閉じ、次の質問を考えた。判定が正しいかではなく、なぜそれだけが異様に強く輝いて見えるのか。その違和感こそが、まだ誰も踏み込んでいない入口だった。

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