エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

小説ID: cmnenb7oo004j01n34751brjz

2章 / 全10

相良はその夜、法廷記録の山を机に広げた。紙ではなく、光る文字列が何層にも重なる端末上の記録だったが、目で追うほどに紙束より重く感じられた。証言者の過去の発言を拾い、会見記録、交通記録、聴取の書き起こしまで突き合わせる。すると、証言の中身そのものより、言い回しの癖がヴェリタスの評価に強く影響している節が見えてきた。断定を避け、細部を順番に並べ、感情を抑えた話し方ほど高く出る。まるで、迷いを削り取った文章だけが真実に近いと宣言されているようだった。 翌朝、相良がその発見を口にすると、事務所の先輩弁護士は肩をすくめた。AIがそう出したなら、それが現代の基準だろう。裁判所も同じだ。相良は反論しかけて、やめた。相手が信じているのは制度ではなく、制度が守ってくれる安心だった。だからこそ疑いは煙たがられる。だが相良は、証言の正誤ではなく、ある種の証言だけが異様に持ち上げられている事実にこだわった。 公開資料を洗い直すうち、似た事件でも同じ傾向があると分かった。被害者像が明快で、語り口が整い、余白の少ない供述ほど、ヴェリタスは妙に寛容だった。だが判定理由の説明には、そこへ至る中間過程が抜け落ちている。相良は運用方針の更新履歴を追い、法務省と開発企業の間で非公開の調整が重ねられていた痕跡に行き着く。制度を急いだために、判断の癖を完全には整えきれなかったのだ。 さらに問題の証言では、細かな前置きや確認の言葉が意図的に積み上げられていた。人間には不自然に見えない程度に、しかし機械には信頼の層として積み重なる。証言者本人が仕組んだのか、それとも誰かが手を貸したのかはまだ分からない。けれど、真実そのものより、真実らしく見える構造が先に整えられていた。 相良は端末を閉じ、法廷の天井を見上げた。冷たい光の中で、答えだけが先に歩き出す世界。けれど、その足元には見落とされた綻びがある。次の法廷で彼が狙うべきは、証言を否定することではない。真実を装う流れそのものを、静かに止めることだった。

2章 / 全10

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