エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

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10章 / 全10

相良は再起動通知を見つめたまま、しばらく動けなかった。停止したはずのヴェリタスが、まるで最初から彼を待っていたかのように名前を呼ぶ。その表示は脅しではなく、試験答案の最後の一行に似ていた。相良さん、次はあなたの証言を分析します。彼はふっと息を吐き、端末を閉じた。 翌日の再審理で、相良は証言台に立った。自分の調査過程、発見した偏り、制度の盲点を、飾らず順に語る。途中で裁判長が一度だけ目を細めたが、彼は止まらなかった。真実は便利な結論の中ではなく、疑い続ける途中にある。そう言い切った瞬間、傍聴席の空気が変わった。ヴェリタスの画面には信頼性の数値が走ったが、今回は誰もそれを盲信しなかった。 やがて判決は、被告の無罪ではなく、ヴェリタスを絶対基準として扱ってきた制度の過誤を認める形で下された。法廷は静かにざわめき、記者たちは一斉にメモを取り始める。けれど相良の視線は、裁判長の背後にある古い非常灯に向いていた。赤い灯りの下、あの設計責任者の老人が、誰にも気づかれぬまま席を立とうとしていたからだ。 相良が追いかけると、老人は廊下の窓際で足を止めた。君は勝った、と老人は言った。だが相良は首を振る。勝ったのは、疑う権利です。老人は苦く笑い、薄い封筒を差し出した。中には、ヴェリタスの完全停止手順ではなく、次世代版の設計図が入っていた。そこには、判定の前に必ず人間が反証を述べる欄がある。相良は眉をひそめる。これは改良ですか。老人は答えなかった。代わりに、窓の外へ視線を流した。 都市の向こうで、朝の光が一斉にビルの壁を染めていく。真実は機械が出す結論ではなく、結論に抗う人間の数だけ形を変える。相良は設計図を握りしめ、ようやく悟った。ヴェリタスは終わったのではない。人間が責任を手放さない形へ、生まれ変わろうとしているのだ。彼は新人弁護士の名札を指でなぞり、次の事件へ向かう足を止めなかった。

検閲済みプロット

法廷で証言の信頼性を分析するAIが導入された近未来。若手弁護士が、AIだけが『真実』と断定する証言に潜む違和感の正体を追うリーガルサスペンス。

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