エラベノベル堂

深き回線、潮の黙示

全年齢

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10章 / 全10

「全世界へ、同時送信します」 通信回収機の狭い機内で、美空は端末を見つめたままそう言った。窓の外には、雲を裂くような白い光が広がり、その下に果てのない海が鈍く揺れている。大貴は操縦席の背後で腕を組み、短くうなずいた。 「改ざんできない形で、だな」 「ええ。証跡そのものを並べます。隠しようのない順番で」 彼女の指が滑るたび、保存済みの断片が一つずつ結ばれていく。港の倉庫で見つけた識別符号。旧型中継装置の破壊痕。会議進行と連動した通信の流れ。そして、危機対応機関を名乗る連合組織の設計痕跡。 「これで終わるか」 大貴が問うと、美空は画面から目を離さずに答えた。 「終わります。少なくとも、あの網はもう表で動けません」 送信の完了表示が並ぶと、機内の空気がふっと軽くなった。まるで張りつめていた糸が、一斉にほどけたみたいだった。大貴は息を吐き、ようやく肩の力を抜く。 「各国、同時に食いつくだろうな」 「ええ。追っていた『謎の通信源』が、危機を装って情報を集めていた側だって分かれば、黙ってはいられません」 窓の外では、無数の監視網へ放たれた証跡が、目に見えない波となって世界へ散っていく。美空は一度だけ目を閉じ、すぐに開いた。 「……一部、失脚しますね」 「一部、どころじゃ済まないかもしれない」 大貴の言葉に、美空はかすかに口元を緩めた。勝った、という笑いではない。ようやく正面から見られる、とでも言いたげな、静かな顔だった。 だが次の瞬間、彼女の端末に残していた最後の未解読ログが、自動的に表示される。消えたはずの一行が、薄い文字で浮かび上がった。 「……主任」 「何だ」 「まだあります」 大貴が覗き込むと、そこには深い海底を示す座標と、別系統の通信網を思わせる断片が残っていた。 「もっと深いところに、眠ってます」 美空の声は震えていない。むしろ、次に見るべきものを見つけた人間の、落ち着いた硬さがあった。 大貴はしばらくその行を見つめ、それから静かに笑う。 「なら、次も俺たちの出番だな」 「ええ。今度は、世界が知らない通信の真実を見届ける側です」 機内の計器が小さく鳴り、回収機は進路を変えた。海の上空を滑る機体の振動が、足元から確かな現実として伝わってくる。大貴は座席の背にもたれ、遠くを見た。 その先にあるのが、終わりではなく、さらに深い始まりだとしても。二人はもう、目を逸らさなかった。

検閲済みプロット

深海ケーブル保守チームが海底で見つけた誰にも属さない通信ログ。解読が進むほど、国家規模の情報戦に巻き込まれるテクノスリラー。

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