食の会は十一月の終わり、商店街の空き店舗を片づけて開かれた。まだ新しい床の匂いと、長年しみついた木の匂いが同じ部屋に残っている。まるでこの通りそのものみたいだと、私は準備をしながら思った。料理部は受付と配膳、そして商店街みんなの一杯になった新しい汁物の仕上げ役を任されていた。 鍋の中では、きのこの香りが静かに立ち、里芋がとろりと溶けかけている。福田さんの味噌が角を丸め、駅前カフェの店長が選んだ乾燥きのこが奥行きをつくる。丸新のおじさんの野菜は甘く、杉本さんの鶏は出すぎず引きすぎず、ちゃんと全体を支えていた。試作の時より、ずっといい。誰か一人の正解じゃなく、何度も言葉と手を重ねた味だった。 会が始まると、古くからの常連も、最近越してきた人も、再開発の説明会で険しい顔をしていた人たちも、同じ湯気の前で足を止めた。最初は遠慮がちだった会話が、一口すすったあとで少しやわらぐ。その変化を見るたび、胸の奥で小さな火が灯るようだった。 おいしいね。 そう言って笑い合う二人が、前には言い争っていた相手同士だと気づいたとき、私はたまらなくうれしくなった。料理には人を結ぶ力がある。あの日、篠崎先生に言われた言葉が、今度は自分の実感として体の中に落ちていく。 会の終盤、役員の人が皆の前で発表した。空き店舗は取り壊しではなく、商店街と学校が一緒に使える試験的な食の工房にするという。若い人が新しい料理を試せて、店の人も技術を伝えられる場所。その最初の企画として、北高料理部に参加してほしい、と。 私は一瞬、聞き間違いかと思った。真帆も結衣も目を丸くしている。拍手の中で名前を呼ばれ、前に出た私の手は、コンテストの時よりずっと震えていた。優勝した時に立つはずだった場所とは違うのに、不思議なくらいまぶしかった。 さらに驚いたのはそのあとだった。進行役の先生が、来年度で異動になる篠崎先生に代わって、この工房の学生代表補佐を置きたいと言い出したのだ。そして推薦されたのは、私だった。高校生の私に、そんな役目が務まるのかと思う。けれど商店街の人たちは、できるよと当たり前みたいにうなずいていた。 帰り道、提灯の残り灯が夜風に揺れていた。優勝を目指して始まった秋が、気づけば私の行き先そのものを変えてしまった。料理人になる。そう決めていたつもりだった。でも今は、その先まではっきり見える。ただ料理を作るだけじゃない。人と人の間にある温度を見て、同じ卓へ導ける人になる。 ポケットの中には、工房の企画書の控えが入っている。紙なのに、なぜかまだ鍋のぬくもりみたいなものが残っていた。私は夜空を見上げ、小さく息を吐く。白くなったその息は、秋の終わりというより、新しい湯気の始まりに見えた。
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商店街の料理コンテストを舞台に、豚汁づくりに挑む女子高校生が、味の違和感の謎を追いながら仲間との信頼を深めていく青春料理サスペンス
