エラベノベル堂

検疫線上の飢作圧

全年齢

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10章 / 全10

地域研究機関の温室は、朝の光を受けて白く濡れていた。ガラス越しに並ぶ苗木は、港で見たときよりも静かで、静かすぎるぶん、こちらの神経を逆なでする。涼太は白衣の袖を整え、再検査の結果報告を見下ろした。 「これで、はっきりしましたね」 七海が小さく言う。 涼太はうなずいた。苗木そのものに、単純な善悪を貼れる話ではない。問題は、誰がその苗を通し、誰の利益になるように流れを組んだのかだった。承認の印が並んだ契約群、その一つ一つが、拡散と利益独占を可能にしていた。 「責任は、個人の手元で終わる話じゃない」 「責任者の承認が、全部の流れをつないでたんですもんね」 涼太は報告書の最後の頁をめくった。そこには、港の記録、実証事業の申請、物流の優先順位、保管条件の抜け道が、一本の線としてつながっている。どの書類も正しく見える。正しく見えるように並べられていた。 会見は短く終わった。企業の責任は公表され、港の運用は見直しに入る。会場を出たあとも、涼太の耳には、質問のざわめきが薄く残っていた。だが、彼はそこで足を止めなかった。 「単純に犯人を探して終わりじゃ、また同じことが起きる」 七海が振り向く。 「だから、報告書に入れたんだ」 「検疫制度の盲点、ですか」 「うん。通すための仕組みと、止めるための仕組みが、同じ書類の中で曖昧になっていた。そこを直さないと意味がない」 涼太は提出済みの控えを指で押さえた。食料を守るとは、目の前の物をただ止めることではない。誰が、何のために、どんな順番で流通を設計したのかを見抜くことだ。その言葉を、彼は記録の末尾に残した。 「守るって、止めることじゃないんだな」 七海が静かに言う。 涼太は少しだけ笑った。 「止めるべきものを見抜いて、残すべきものを残す。それだけだ」 温室の奥で、再検査を終えた札が揺れた。涼太は最後にもう一度だけ苗木へ目を向け、それから扉へ向かう。港へ戻るのではない。港を、静かに後にするために。

検閲済みプロット

国境沿いの検疫港を舞台に、植物検疫官の主人公が合法だが危険な外来種取引を追跡し、食料危機と企業犯罪の接点を暴く社会派サスペンス。

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