エラベノベル堂

雪圧ダム 潜歴調査

全年齢

小説ID: cmnepuw9l000i01nwgtbk2q12

1章 / 全10

吹雪の朝は、管理所の窓を白く潰していた。藤崎美緒は監視盤の前で、眠気を追い払うみたいに両手を組む。山間のダムは静かだ。静かすぎて、機械の呼吸のほうがむしろ大きく聞こえる。 「今日も平常、か」 独り言を漏らした瞬間、別の数字が目に刺さった。水位の推移を示す細い線が、ほとんど見落とすほどの幅で震えている。針がふっと迷い、すぐ戻る。けれど一度見えてしまえば、ただの誤差で片づけるには妙に整いすぎていた。 美緒は眉を寄せ、記録を遡る。前日、前週、先月。どれも似た揺れはない。なのに、印字を日付順に並べ替えた途端、ある一点だけが浮いた。そこだけ、毎年まったく同じ日付に、同じような微細な変動が残っている。 「え……なんで?」 指先が少し冷たくなる。季節の融雪でも、風でもない。もし自然由来なら、こんなふうに暦に縛られたみたいに揃うはずがない。美緒はもう一度、前年の記録を開いた。やはりその日だけ、ほんの短い揺れがある。翌年も、その翌年も。しかも揺れ幅はほぼ同じで、他の日は嘘みたいに平坦だった。 監視盤の表示灯が規則正しく瞬く。その律動に混じって、見えない何かが同じ場所で息をしている気がした。 「ねえ、君たち、何を隠してるの」 問いかけても、返事はない。ただ、白い窓の向こうで雪がしきりに舞い、管理所全体を閉じ込めるように降り続ける。その沈黙の中で、美緒は記録用紙を指で押さえた。偶然にしては、出来すぎている。 毎年同じ日だけ起こる、あまりに小さな揺れ。だがその小ささこそが、何かの合図みたいに思えてならなかった。

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