朝の公園は、まだ人の声よりも鳥の鳴き声のほうが大きかった。佐伯陽はいつもの近道を抜けたところで、ベンチの端に白い封筒が置かれているのに気づいて足を止めた。 「忘れ物か……?」 手に取ると、薄い紙の内側に何か一枚入っている重さがした。差出人も宛先もない。妙にきれいな封筒で、落としたというより、誰かがわざと置いていったみたいだった。 陽は周囲を見回した。ジョギング中の人が遠くを通り過ぎるだけで、ベンチの周りには誰もいない。 「いたずら、だよな」 そう言い聞かせて封を切る。中に入っていたのは、古びた地図の切れ端だった。紙は黄ばんで、折れ目の白さだけが不自然に浮いている。町の名も、通りの一部も読み取れたが、全体の形は欠けたままだった。 陽は指先で端をなぞった。知らないはずなのに、どこか胸がざわつく。昔から見慣れた住宅街の輪郭が、たった一片の紙で別の顔を見せた気がした。 「なんだこれ……」 封筒の中をもう一度確かめる。やはり他には何もない。メモも、名前も、説明もなかった。けれど、捨てるには妙に気になった。朝の光の中で薄い紙片を見つめているうちに、ただの悪ふざけだと切り捨てるには、少しだけ引っかかりが残る。 陽は封筒ごと折りたたみ、ポケットにしまった。 「まあ、持って帰るだけならいいか」 自分に言い訳しながら歩き出す。背後のベンチはもう何事もなかったみたいに静かだったが、掌の中に残った紙の感触だけは、なぜかやけに長く消えなかった。
ぎこちないまま並走中
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