エラベノベル堂

ぎこちないまま並走中

全年齢

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2章 / 全10

夕方になると、部屋の窓に斜めの光が差し込み、机の上の紙だけを妙に白く浮かび上がらせた。佐伯陽はさっきまでポケットに入れていた封筒を取り出し、古い地図の切れ端をそっと広げる。薄い紙は折り目のせいで少し丸まり、端が机の木目に引っかかった。 「うわ、思ったより小さい……」 ひとりごとを漏らしながらも、陽はすぐにスマホを置いた。画面越しに見るより、実物のほうがずっと生々しい。町名の一部、曲がりくねった通り、印刷のかすれ。指でなぞるたび、見慣れたはずの地図が、知らない迷路みたいに思えてくる。 机いっぱいに広げたメモ帳と、引き出しの奥から出した町の案内図を並べる。陽は片端から照らし合わせ、古い建物の位置を一つずつ確認していった。 「この角の店は今もある。こっちの倉庫は去年取り壊されたし……」 独り言が増えるほど、余計に頭が冴えていく。だが、いくら見比べても、ひとつだけ妙な場所が残った。周囲の道筋はつながっているのに、その中央だけがぽっかり空いている。建物がないというより、そこだけ最初から描かれていないみたいだった。 陽は眉をひそめた。 「ここ……何だ?」 案内図の余白に重ねると、欠けている部分は古い建物の区画とちょうど重なった。けれど、そこにあるはずの名前だけが見当たらない。表面は何気ない空白なのに、見つめているうちに、その穴だけが不自然に目立ってくる。 「閉鎖された図書室……?」 口に出した瞬間、妙にしっくりきた。子どものころから前を通っていたような、でも記憶の奥でぼやけているような場所。陽は背もたれに寄りかかり、静かに息を吐く。 いたずらかもしれない。偶然かもしれない。なのに、胸の奥で小さな期待がふっと灯った。 もしかすると、ただの紙切れじゃないのかもしれない。 その一方で、不安も同じだけ募っていく。知らないものを見つけたときのわくわくと、踏み込んではいけない扉の前に立ったような落ち着かなさが、ひとつの胸の中でぶつかり合っていた。 「明日、行ってみるか」 誰に言うでもなくつぶやく。行く先は、地図の空白に重なったあの場所だ。確かめたい気持ちは強いのに、確かめた先で何が待っているのかは、まだわからない。 陽は地図を丁寧に折りたたみ、封筒へ戻した。机の上には、さっきまでより少しだけ重くなった静けさが残る。窓の外では、夕暮れの色が少しずつ濃くなっていった。

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