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黒マント同好会対白手袋クラブ

全年齢

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1章 / 全10

街の片隅、古びた雑居ビルの三階に、黒マント同好会はあった。蛍光灯の半分が切れ、窓際には誰が置いたのか分からない観葉植物が埃をかぶっている。そんな部屋の中心で、会長の影山は真剣な顔をしてホワイトボードに大きく書きつけた。世界征服。たった四文字なのに、どうしてこんなに部屋が狭く見えるのか、誰も口にはしなかった。 「我々は選ばれし者だ」 影山が低くうなずくと、会員の三人もそれらしく腕を組んだ。だが実際には、会議のたびに弁当の話と家賃の話が半分を占める、どこか抜けた集団である。それでも彼らは本気だった。本気だからこそ、毎週火曜の夜、わざわざ黒い布を肩にかけて集まる。 その日、事態が動いた。下の階の印刷所で働く青年が、いつものように階段を上ってきて、何気なく言ったのだ。 「近くで、白手袋クラブって連中が活動を始めたらしいですよ」 部屋の空気がぴたりと止まった。 白手袋クラブ。名前からして憎たらしい。黒い者には白、闇には光、そして同好会には宿敵。影山は椅子から立ち上がり、机を叩いた。 「ついに来たか」 誰が来たのかは曖昧だったが、全員が大きくうなずいた。宿敵の噂は、ついさっきまでせまかった世界を、急に舞台へ変えてしまう。黒マント同好会は即座に対抗を決めた。組織の威信、黒の誇り、会議室の空気、その全部を守るためである。 翌日から、彼らは監視を始めた。路地の角に立って尾行を試みた者は、コンビニ袋を提げた近所の主婦に三度までは見逃され、四度目で 「お仕事熱心ですね」 と笑われた。暗号文は、威厳を込めて短く整理されたつもりだったが、受け取った相手にはただの買い物メモに見えたらしい。潜入作戦では、目立たぬ格好をしたはずの会員が、なぜか白手袋クラブの歓迎会に混じって座布団を並べる羽目になった。 失敗は重なった。だが、白手袋クラブもまた同じくらい不器用だった。彼らは黒マント同好会の平凡な買い出しを、秘密兵器の輸送だと勘違いし、必要以上に大げさな対抗策を練り始める。こうして両者は、互いを恐るべき強敵だと思い込み、見当違いの準備だけが派手になっていった。 そしてついに、同じ日時、同じ場所で、決定的作戦を実行することになる。舞台装置の入れ替え、変装、偽の予告状、目くらまし用の紙吹雪。どれも小さく、どれも中途半端で、なのに妙に手が込んでいた。 当日、風にあおられた紙吹雪が、先に仕掛けた看板を隠し、変装した会員が自分の所属を見失い、舞台袖では互いの資料が入れ違いになった。結果、隠れ家の正体は自分たちの手でばれてしまい、作戦の紙束も片っ端から散らばった。ところが周囲の人々は、ただの地域イベントの余興だと思ったらしい。誰も彼らを脅威とは扱わず、拍手まで送って去っていく。 夜が更けるころ、黒マント同好会も白手袋クラブも、拠点を失い、資金も名誉も失って、事実上の共倒れになった。だが、瓦礫のように積まれた資料の前で、両者は妙に同じ顔をしていた。見栄っ張りで、不器用で、少しだけ寂しい顔だ。 「……お前たちも、くだらないことに本気だったのか」 「そっちこそ」 その一言で、なぜだか場が和んだ。争っていたはずなのに、似た者同士だと分かると、怒りは不思議とほどけていく。やがて誰からともなく、どうせなら合同でやったほうが楽しいのでは、という空気が生まれた。 こうして新たな秘密結社が名乗りを上げる。黒と白を合わせた、少しだけ格好のつく名前だった。けれど最初の議題は、世界征服でも復讐でもなく、次の会議のおやつを何にするかである。甘い菓子か、しょっぱい菓子か。その小さな争いだけが、やけに真剣に続いていた。

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