エラベノベル堂

黒マント同好会対白手袋クラブ

全年齢

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2章 / 全10

承の噂は、次の日にはもう黒マント同好会の会議室を満員にしていた。誰もが机の前に身を乗り出し、息をひそめて白手袋クラブの正体を探ろうとする。だが、最初に動いた尾行役の戸田は、駅前の花屋であっさり背後を指摘され、なぜか菊の束を抱えて帰ってきた。 「気づかれてはいない。これは、あえて足跡を残さない高度な誘導だ」 影山はそう言ったが、誰の目にも、普通に見失っただけだった。 次に試した暗号文は、三日後に白い封筒で返ってきた。中身を開くと、じゃがいも、牛乳、歯磨き粉、電池と、妙に生活感のある並びが並んでいる。会員たちはしばらく沈黙したあと、戸田が唇を曲げた。 「これは補給計画だな」 「いや、買い物メモだろう」 誰かがつぶやいたが、影山は腕を組んだまま首を振った。 「敵が平凡を装っている。油断させる気だ」 平凡を装う、という言葉だけが妙に説得力を持ってしまい、以後、彼らは近所のスーパーの棚配置まで調べるようになった。 潜入作戦はさらに悲惨だった。黒いコートを裏返して目立たぬ格好にしたつもりの会員が、なぜか白手袋クラブの歓迎会へ迷い込み、流れで座布団を配る係に回されたのである。会場では拍手が起こり、誰かが肩を叩いた。 「新入りさん、手際がいいねえ」 そのまま逃げそびれた会員は、差し出されたお茶を受け取り、白手袋クラブの会議録まで持ち帰ってきた。だがそれも、途中までしか読めない役立たずの資料だった。最後の一行には、なぜか来週の河川敷清掃の予定が書かれている。 一方、白手袋クラブもまた、黒マント同好会の動きを見て震え上がっていた。彼らは雑居ビルから出てくる会員たちを、秘密兵器の運搬だと本気で信じていたのである。実際には、家賃の集金と弁当の買い出しが半分だったのだが、彼らの目には巧妙な偽装に映った。白手袋クラブの幹部は、過剰な対抗策を次々に積み上げた。 「相手は陽動を使う。こちらは先に場を制圧する」 「では、紙吹雪だ」 「看板を入れ替えよう」 「予告状も必要だな」 こうして両者は、互いの小さな失敗を大きな策略だと誤解したまま、同じ日に、同じ場所で、決定的作戦をぶつけ合うことになる。だがその時点で、もう誰も後戻りできなかった。黒も白も、引くに引けない顔をして、妙に大げさな準備だけを積み上げていく。会議室の空気は熱っぽく、世界征服の文字だけが、やけに遠くで揺れていた。

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