エラベノベル堂

黒マント同好会対白手袋クラブ

全年齢

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1章 / 全10

「では、ただいまより夜灯会定例会を開く」 相沢悠人は、地下にこもった湿った空気の中で、古びた長机を見つめた。繁華街の裏、雑居ビルの階段を降りた先にある会議室は、蛍光灯の明かりだけがやけに白く、壁の染みまでくっきり浮かび上がっている。机の上には手書きの作戦書と、安売りでまとめ買いしたらしい菓子が無造作に並んでいた。 「ついに動くのか」 誰かが息をのむ。 上座に座った幹部が、わざとらしく咳払いした。 「諸君、我らは本日、隣の黒鍵団に対し、正式に宣戦布告する」 会議室が、しんと静まった。次の瞬間、全員が一斉にうなずいた。 「おお、ついに」 「待ちに待った瞬間だ」 「勝ち確だな」 口々に飛び出す声は妙に大仰で、しかもどこか薄い。悠人はその勢いに圧されながら、作戦書の一枚目をそっと覗き込んだ。そこには、達筆と雑な修正が入り混じった文字で、作戦名だけがやたら立派に書かれていた。 夜灯の刃、沈黙の一撃、月下の逆襲。 「……で、具体的には」 小声で尋ねると、隣の先輩が胸を張った。 「細かいところは、流れで決める」 流れで決める、という言葉がこんなに不安を呼ぶとは思わなかった。 幹部は机を軽く叩いた。 「我々は小規模に見えるかもしれん。しかし、勢いこそが組織の魂だ。黒鍵団は見かけ倒しだ。こちらが先に圧をかければ、あちらはたちまち崩れる」 「そのとおり!」 また全員が大きく頷く。けれど悠人には、頷きの角度が揃いすぎていて、むしろ不自然に見えた。しかも誰も菓子の封を切っていない。会議が始まっているのに、机の上だけが妙に整っている。 「相沢、君もどうだ」 幹部に視線を向けられ、悠人は慌てて背筋を伸ばした。 「はい。ええと、頑張ります」 それしか言えなかった。 歓声が上がる。紙コップの中身は薄いお茶だ。なのに誰もが勝利の祝杯みたいな顔をしていた。 「よし、これで決まりだ。黒鍵団に思い知らせてやる」 その言葉に、会議室の空気は一瞬だけ熱を帯びた。だが次の瞬間、長机の端に積まれた作戦書の束が、誰かの手で少しだけずれて落ち着いた。その拍子に、印刷ではなく手書きで埋め尽くされた修正箇所が見えてしまう。予定、代案、さらに代案の代案。どれも途中で書き直され、最後は余白に丸め込まれていた。 悠人は笑えなかった。 勝つ気がないわけじゃない。むしろ全員、本気で勝つつもりらしい。けれどその本気が、なぜか安い菓子と薄いお茶と手書きの作戦書の上に乗ると、ひどく頼りなく見える。 「相沢、顔が青いぞ」 「いえ、少しだけ……嫌な予感が」 「若いな」 幹部は豪快に笑った。 「心配するな。戦いというものは、始まる前がいちばん派手でいい。さあ、夜灯会の名を上げるぞ」 会議室の全員が、もう一度、今度はさらに大きくうなずいた。 悠人だけが、胸の奥に落ちた小さな石の感触を、どうにも追い払えずにいた。

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