エラベノベル堂

黒マント同好会対白手袋クラブ

全年齢

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10章 / 全10

夜が明けるころ、黒マント同好会の会議室は、もう何もかも失っていた。看板は紙吹雪と一緒に風にさらわれ、帳簿は床に散ったまま、誰が片づけるでもない。隣の白手袋クラブも同じだった。白い手袋の山だけが妙に清潔に見えて、それがかえって惨めだった。 「結局、俺たちは何を守っていたんだろうな」 影山がぽつりと言うと、向かいの代表が肩をすくめた。 「威信、かな。たぶん」 「たぶん、か」 その曖昧さが、妙に心地よかった。相手も自分たちと同じくらい、見栄を張って、空回りして、最後には自分で自分の首をしめる。そう分かってしまうと、腹立たしさより先に、変な親しみが湧いてくる。 会議室の隅で、誰かがうずくまった段ボールを開けた。中には、黒側が買い置きしていた菓子と、白側が持ち込んだ高そうな焼き菓子が、奇妙に混ざって入っている。どうやら撤収の途中で、互いの荷物を取り違えたらしい。 「……食えるな」 「食える」 その一言で、場の空気は少しだけほどけた。争う理由が、急に小さく見えたのだ。世界征服も秘密工作も、腹が減っていては始まらない。ならば合同でやったほうが、たしかに効率がいい。 誰からともなく、黒と白を混ぜた新しい札が机の上に置かれた。新組織の名前は、少しだけ立派だった。黒白連盟。誰が考えたのかは分からないが、響きだけは悪くない。 ただし、最初の会議で決まった議題は、世界征服ではなかった。 「次のおやつ、甘いのとしょっぱいの、どっちにする」 「両方でいいだろ」 「予算が足りない」 「なら安い方を二種類に分ければ」 「それは両方とは言わない」 たちまち議論は熱を帯びる。さっきまでの破局が嘘みたいに、皆の声には力があった。結局、敵対していたころと何も変わっていないのかもしれない。だが、変わっていないからこそ、どこか可笑しくて、少しだけ楽しい。 窓の外では、昨日の騒ぎを知らない通勤客が足早に通り過ぎていく。誰も彼らを伝説の秘密結社とは思っていない。けれど、それでいいのだろう。大それたことを掲げて、目の前の菓子で揉める。その情けなさこそが、この集まりの正体なのだから。 影山は湯気の立つ紙コップを手に取り、白手袋クラブの代表と目を合わせた。 「次は、もう少しまともにやろう」 「無理だろうな」 「だな」 二人は同時に笑った。世界征服は、また遠のいた。だが、会議室の真ん中に置かれた菓子の箱だけは、妙に輝いて見えた。

検閲済みプロット

二つの秘密結社が水面下で対立し、互いに出し抜こうとして大騒動を巻き起こした末に、どちらも自滅気味に失敗してしまう、勘違いとすれ違い中心のコメディ。対立の緊張感は保ちつつ、表現は一般向けのドタバタ劇にする。

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