エラベノベル堂

黒マント同好会対白手袋クラブ

全年齢

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9章 / 全10

「では、確認を始めます」 区役所前の広場には、朝の光がまだ少し硬かった。噴水の水音がやけに澄んでいて、昨夜までの騒ぎが本当にここで起きたのか疑いたくなる。だが、整列させられた夜灯会と黒鍵団の面々は、誰もその静けさをありがたがっていなかった。 「相沢、口を開くなよ」 幹部が低く言う。悠人はうなずきかけて、すぐに止めた。広場の端に置かれた折りたたみ机の向こうで、区役所の職員が分厚いファイルを開いている。その横には、昨夜の騒動を記録したというメモと、写真の束まで並んでいた。 「では夜灯会さん、先にお願いします」 「我々は、別に……」 幹部が言葉を濁した瞬間、隣の黒鍵団の男が咳払いした。 「うちも、特に問題は」 「いえ、あります」 職員は目を上げた。 「立入検査の妨害、通路占拠、避難誘導の停止、備品の誤搬出、さらには噂の流布まで。全部、ここに記録されています」 広場が、すっと冷えた。 「ま、待て。誇張だろう」 夜灯会の幹部が慌てると、職員は無言で一枚の紙を見せた。そこには、会議室で作った作戦名まで、くっきり書かれている。 「夜灯の刃、沈黙の一撃、月下の逆襲。随分と派手ですね」 「なんでそこまで」 悠人は思わず漏らした。 「職員同士の引き継ぎで、全部回ってきました」 その一言で、幹部の顔がさっと青くなる。黒鍵団側も同じだった。どうやら昨夜の出入りや騒ぎは、誰かの帳面にきちんと残されていたらしい。しかも、夜灯会の悪事だけでなく、黒鍵団の仕込みや嫌がらせまで、ほぼ同じ調子で並べられている。 「ちょっと待ってください」 黒鍵団の男が身を乗り出す。 「それ、向こうの分も入っているなら、うちだけの責任ではないはずです」 「ええ、もちろんです」 職員は淡々と答えた。 「だから両組織とも、実質的な活動停止です」 言葉の最後が、広場の石畳に落ちたみたいに重かった。 「停止、って……」 悠人は息を呑む。幹部は机を叩きそうになり、直前で拳を止めた。 「待て。うちは、まだ動ける。黒鍵団の方が先に」 「いえ、こちらもまだ」 「では、なぜここまで書類が揃っているんですか」 職員は首を傾ける。 「帳簿上は、ずいぶん前から活動に無理がありましたよ」 その言い方が、妙にやさしいのが余計に堪えた。悠人は帳簿、伝票、古い作戦書、全部を思い出す。赤字だらけの数字も、倉庫の札の貼り直しも、見栄だけで膨らませた噂も、結局は全部つながっていたのだ。 「……うち、そんなに目立ってましたか」 小さく聞くと、職員は少しだけ困った顔をした。 「目立つというより、残りすぎです」 その瞬間、夜灯会の幹部と黒鍵団の幹部が、ほぼ同時に黙った。互いに睨み合う気力さえ削がれている。悠人は空を見上げる。広場の上には、思ったより普通の青空が広がっていた。 「本日をもって、正式な活動は止めてください」 職員の声が、静かに締めくくられる。 「再開については、後日改めて相談を」 相談、という言葉に、どちらの組織も返事をしなかった。誰かが落としたボールペンが、石畳を少しだけ転がる。悠人はその音を聞きながら、目の前で小さく肩を落とす幹部たちを見た。 終わった、のだろうか。 いや、終わったからこそ、ここから先がいちばん厄介なのかもしれない。

9章 / 全10

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