休日の動物園は、朝から甘い匂いと水気を含んだ風に満ちていた。開園前の通路では飼育員たちが手際よく掃除を済ませ、餌の準備や健康確認に追われている。いつも通りの一日が始まる、そのはずだった。 ライオン舎では、金色のたてがみを揺らした雄が岩の上であくびをした。目の前を、色とりどりの服を着た人間たちが列になって流れていく。あれは何だと、彼は目を細める。決まった歩幅で進み、立ち止まり、また進む。そのたびに手に持った四角い道具を顔の前に掲げ、妙な角度で首を傾けるのだから面白い。 フラミンゴたちは、細い脚で水辺に並びながら、来園者の動きを真似する遊びに夢中だった。片足を上げてじっとしていると、人間の子どもが歓声を上げる。すると、さらに大げさに首を曲げて見せる。まるで見せるために生きているみたいだと、誰かが言った。 カメはというと、石の上でほとんど動かないまま、長い時間をかけて観察していた。人間はどうしてあんなに急いで歩くのに、休むときは地面に敷物を広げてじっと座り込むのだろう。しかも、袋から四角い箱を取り出すと、皆で同じ物を眺め、順番に口元をほころばせる。あれはきっと、群れの儀式だ、とカメは結論づけた。 昼近くになると、園内のあちこちで人間の不思議な習性が見えてきた。木陰で弁当を広げる家族は、食べる前に必ず一度全体を見渡す。記念写真を撮る若い二人は、互いの肩にそっと触れながら、同じ方向へ顔を寄せる。メモ帳に何かを一心に書き込む学生らしき人間は、動物を見るよりも、周囲の人間の動きを熱心に記録していた。 その様子を、動物たちはそれぞれのやり方で眺めていた。誰かが言った。人間はきっと、互いの気配を確かめ合わないと落ち着かないのだ、と。別の誰かは、あの四角い道具の中に小さな太陽でも閉じ込めているのではないかと答えた。どの解釈も、真顔で語るには少しばかりおかしく、しかし妙に筋が通っていた。 やがて、観察はただの暇つぶしではなくなった。あの人間は何を考えているのか、あの仕草にはどんな意味があるのか。動物たちの間でそんな話題が増え、いつしか園内の片隅では人間行動研究などと呼ばれるものまで始まった。もっとも、正式な看板が出たわけではない。ただ、みな少しずつ本気になっていっただけだ。 そしてそのころ、飼育員たちはいつも通り、餌の量や体調の記録に頭を使っていた。自分たちが見られているとも知らずに。だが、休日の陽気はすべてをやわらげる。動物たちは柵の向こうを行き交う人間たちを見つめ、人間たちはその向こうで静かにこちらを見ていた。互いに別の生き物だと知りながら、どこかで同じように笑っていることだけは、まだ誰も気づいていなかった。
動物園の観察会
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