新学期の朝、校門の前に知らないおじいさんが一人座っていた。背筋をぴんと伸ばし、ベンチの端にちょこんと腰を下ろしたまま、誰に話しかけるでもなく、ただ通り過ぎる生徒たちを見ている。黒い学生鞄を揺らしながら駆けていく僕らは、その姿を避けるようにして門をくぐったが、視線だけは何度も引き戻された。怖いというほどではない。けれど、朝の空気の中にぽつんと置かれた石のように、妙に気になった。 「あれ、誰?」 誰かが小声で言った。けれど答えは返らない。担任に聞いても、知らないの一言で終わった。用務員さんにも聞いたが、首をひねるだけだった。おじいさんは始業式の間もそこにいたらしく、昼休みに見に行くと、まだ同じ場所にいた。まるで校門の影に最初から縫い付けられていたみたいだった。 次の日もいた。しかも今度は二人だった。最初のおじいさんの隣に、帽子をかぶった小柄な人が静かに座っている。さらにその次の日、また一人増えた。三人はほとんど同じ向きで座り、同じタイミングで空を見上げたり、遠くのグラウンドを眺めたりした。しゃべっているようで、実際にはほとんど声が聞こえない。けれど、まったく無関係でもないらしく、たまに短くうなずき合う。その動きが妙にそろっていて、僕らは余計に落ち着かなくなった。 学校ではすぐに噂になった。昔の先生だとか、待ち合わせの場所を間違えたとか、何かの抗議だとか、いろんな話が飛び交った。でも、どれも途中で止まってしまう。質問すると、みんな急に自信をなくした顔をするのだ。 「おじいちゃんたち、何してるんですかね」 生徒会の先輩が勇気を出して話しかけると、先頭のおじいさんは少し目を細めて笑った。 「昔の約束だよ」 それだけだった。何の約束かは教えてくれない。けれど、その後に来た別のおじいさんが、校門の向こうを見て、ぽつりと 「ここは昔、広場だった」 と言った。その言葉で、周囲の空気が少しだけ変わった。今の校舎の前に、かつて人が集まり、子どもが走り、祭りの準備をした場所があったのだという。 そして、四人目、五人目と増えるうちに、彼らは自然と昔の広場仲間だったことが分かってきた。毎朝ここで顔を合わせ、誰が遅れただの、今日は風が強いだの、そんな何気ない時間を積み重ねていたらしい。懐かしさに引かれるように、再び同じ場所へ集まっていたのだと聞けば、不気味さは少し薄れた。けれど、彼らの並び方や視線の揃い方には、まだどこか秘密めいたものが残っていた。 しかも、その秘密はなかなか口を開かない。まるで校門の前に、昔の景色そのものが小さく座っているみたいで、僕らは毎朝そこを通るたびに、知らない時代の扉を少しだけ押している気分になった。気づけば、騒がしいはずの登校時間が、ひそひそ話と小さな笑いを運ぶ、学校の新しい始まりになっていた。
校門前の長椅子
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