それでも、謎がほどけたわけではなかった。おじいさんたちは昔話をしそうでしない。誰かが 「どうしてうちの前なんですか」 と聞けば、 「ここがいちばん落ち着く」 とだけ返す。別の生徒が 「何を待っているんですか」 と尋ねても、 「待つのは慣れている」 と笑うだけだった。その笑い方が妙にそろっていて、まるで一枚の古い写真から抜け出してきたみたいに見えた。 先生たちも最初は困っていたが、やがて諦めたように、いや、少し楽しみ始めたように見えた。朝礼で校門前の様子に触れると、教室のあちこちでくすりと笑いが起きる。遅刻しそうな生徒が慌てて走り込むたび、おじいさんたちは一斉に身を引いて道をあける。その動きがあまりにも見事なので、誰かが拍手したら、次の日から何人かが本当に拍手するようになった。 そんなある日、体育祭の準備で校門前を飾ることになった。色紙を張った柵や、応援の旗を運び込んでいると、いつもの席に座っていたおじいさんが立ち上がった。すると他の人たちも同じように立ち、何も言わずに作業を手伝い始めた。ロープを持つ手つきは不器用なのに、なぜか息が合っている。先生が慌てて止めようとすると、先頭のおじいさんは 「昔はこうして祭りの支度をした」 とだけ言った。 その一言で、校門の外側が少しずつ昔の広場に重なって見えた。ここには石畳があり、木陰に売り台が並び、夕方になると子どもたちが追いかけっこをしたのだという。戦後に道が整えられ、広場はなくなり、集まる理由も、集まれる場所も消えた。それでも彼らは互いの顔を覚え、年月を越えて同じ場所を目印にしてきたのだ。 知ってしまうと、不気味だった輪郭はやわらいだ。けれど、奇妙さまで消えたわけではない。体育祭当日、校門前には朝からおじいさんたちが並び、入場する選手たちに向かって 「足をそろえろ」 「旗は上だ」 と真剣な顔で助言し続けた。しまいには応援合戦の先頭に立たされ、太鼓に合わせて肩を揺らし、最後には誰より大きな声で校歌を歌っていた。 その日以来、校門前は少しだけ特別な場所になった。朝の登校時間になると、生徒はおじいさんたちに会うために早足になり、遅刻寸前の顔もつい笑ってしまう。最初は怖がられていたはずのベンチは、今では妙に居心地のいい待ち合わせ場所になった。あの人たちがそこにいるだけで、学校は今日もちゃんと始まる気がした。
校門前の長椅子
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