エラベノベル堂

校門前の長椅子

全年齢

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10章 / 全10

新学期の朝、校門前のベンチには、もう七人のおじいさんが並んでいた。最初はひとりだったはずなのに、気づけば顔見知りのような顔ぶれが増え、今では登校する生徒たちも見慣れた風景として受け入れつつある。けれど、その日は少し違った。全員が妙にそわそわしていて、誰かを待っている空気が、朝の光に薄く張りついていた。 やがて、古参職員が校門の外から小走りで現れた。手には、古い封筒がある。彼は深く頭を下げると、おじいさんたちの前にそれを差し出した。 「見つかりました。広場の最後の記録です」 封筒の中には、色あせた写真と、手書きの地図、そして一枚の名簿が入っていた。そこには、今はもうない広場の中心に、祭りの日の並び順まで記されている。誰がどこで太鼓を叩き、誰が提灯を持ち、誰が子どもたちの先頭に立つか。驚いたのは、生徒たちだけではなかった。おじいさんたちは、その文字を見た瞬間に、まるで長い夢から呼び戻されたような顔をした。 「これで、やっと終わりだな」 そう言ったのは、最初に現れたおじいさんだった。僕は思わず身構えた。だが彼は悲しそうでも、名残惜しそうでもなかった。むしろ、肩の荷が下りたように笑っていた。 古参職員は小さくうなずいた。 「広場は消えたんじゃない。誰かが覚えているうちは、まだ残っている。だから、この学校で行事にしてしまえばいいと思ったんです」 その言葉に、先生たちも生徒たちも黙った。最初はただ不気味だったはずの集まりが、実は失われた場所を次へ渡すための準備だったと知ったからだ。おじいさんたちは秘密を隠していたのではない。忘れられないように、毎朝ここへ座っていたのだ。 そこからは早かった。文化祭の会場図は書き換えられ、校門前のベンチが正式な受付場所になった。おじいさんたちは待ってましたとばかりに動き出し、旗の高さを直し、提灯の並びをそろえ、通路の幅にまで口を出した。最初は戸惑っていた先生も、気づけば彼らの指示に従っている。古参職員は太鼓の担当を任され、照れくさそうに腕をまくった。 当日、校門前は朝から大混雑だった。近所の人が懐かしそうに立ち寄り、卒業生が写真を撮り、在校生は半ば面白がりながら案内を手伝う。おじいさんたちは、まるで昔に戻ったみたいに背筋を伸ばし、入口に立つだけで全体を落ち着かせた。 閉会間際、先頭のおじいさんがベンチから立ち上がった。全員が同時に続く。誰かの合図ではない。けれど、不思議なほどそろっていた。 「さあ、広場を始めよう」 その一言で、拍手がわっと広がった。笑い声が重なり、誰かが笛を鳴らし、先生までもが苦笑しながら手を叩く。最初は怖かった校門前が、今では町じゅうの人が集まる、少し変で、ひどく温かい場所になっていた。 帰り際、古参職員が小さく言った。 「終わったんじゃない。戻ったんです」 ベンチには、今日もおじいさんたちが座っている。けれど、もう誰も不気味だとは言わない。朝の空気の中で、失われた広場は静かに息をし続けていた。

検閲済みプロット

中学校の正門前に、数日前からおじいさんが一人、じっと座り込むようになった。ところが翌日からは少しずつ人数が増え、学校の前がいつの間にかにぎやかで不思議な雰囲気に包まれていく。怖さとおかしさが同居するホラーコメディとして描いてください。

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