エラベノベル堂

金属スライム、森を守る

全年齢

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1章 / 全10

目を開けた、と思った瞬間に、世界が冷たく光った。 いや、開いたのは目じゃない。どこに目があるのかも、もうわからない。身体は掌よりも小さく、視界いっぱいに映るのは濡れた土と、黒い木の根と、夜明け前の青い靄だけだった。 俺は、ぷるん、と震えた。 震えた、というより、跳ねた。 なんだこれ。声を出そうとしても、喉の感覚がない。息を吸う苦しさもない。代わりに、体の芯を通るような薄い熱がひとつあるだけだ。 「……は?」 自分の声を聞いた気がしたのに、森は何も返さない。 思い出す。会社。帰り道。冗談みたいに痛む頭。そこから先が、抜け落ちたように途切れている。なのに記憶は残っていた。昼休みに見たスマホの画面、雨上がりのアスファルト、誰かの笑い声。全部、人間だった頃の俺だ。 その俺が今、金属みたいに鈍く光る小さな塊になっている。 冗談だろ。 前足もない、手もない。あるのは、丸くて冷たい身体だけ。だが、ただ寝転がっているには、空気がざわつきすぎていた。遠くで枝を踏む音。低い唸り声のようなもの。何かが、この森を歩いている。 来る。 そう理解した瞬間、俺は必死に身をよじった。 跳ねる。転がる。違う、隠れるんだ。 近くの茂みへ向かって、でたらめに弾んだ。身体は思ったより軽く、土の上でぽん、ぽんと跳ねるたびに、不自然なくらい光を返す。朝が来る前の薄暗さでも、目立つ。やばい。これ、見つかったら終わるやつだ。 茂みの下に潜り込むと、葉が顔を隠してくれた。正確には顔なんてないはずなのに、見られている気配が薄れるだけで、妙に安心する。 さっきの足音が、少し近づいて止まった。 息を殺す、なんて無理だ。けれど、とにかく動かない。木の葉の隙間から、獣らしい影が通り過ぎるのが見えた。大きい。牙がある。鼻先を地面に近づけ、何かを嗅いでいる。 俺は、石になったつもりで固まった。 いや、石より硬い気がするけど。 影は一度こちらを向いた。心臓があるなら飛び出していたかもしれない。だが次の瞬間、風が枝を揺らし、獣は別の匂いを追って遠ざかっていった。 助かった。 そう思ったとき、ようやく自分が震えていることに気づく。 この身体は、跳ねるしかできない。けれど、跳ねることすら武器になるのかもしれない。 俺は茂みの奥で、小さく、何度も跳ねた。 生き延びるために。まずは、この森で目立たずに息をする方法を覚えるために。

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