エラベノベル堂

金属スライム、森を守る

全年齢

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2章 / 全10

茂みの奥で何度も跳ねているうちに、足元の土が少しだけ柔らかいことに気づいた。 いや、足元なんて言い方も変だ。俺には足がない。だけど跳ねた先の感触は、ちゃんとわかる。湿った土、細い根、転がる小石。その一つひとつが、身体に跳ね返ってくる。 少し落ち着いたところで、俺は茂みを抜けた。夜明け前よりは明るい。木々の隙間から差す薄い光が、森の中に細い筋を作っている。風に誘われるように進むと、やがて小さな泉が見えた。浅く、澄んでいて、水面がゆっくり揺れている。 近づいた瞬間、そこに映った自分の姿を見て、俺は固まった。 丸い。小さい。金属みたいに鈍く光っている。 「……ほんとに、スライムかよ」 返事はない。だが水面に映る俺は、見れば見るほど硬そうだった。ぷにぷにというより、磨いたばかりの硬貨みたいだ。 試しに、泉の近くに落ちていた枝に触れてみる。 枝が、弾かれた。 「えっ」 もう一度押しつける。今度は、こすれた枝先がきしんで、逆にこちらが押し返すような感触があった。刃物みたいに、とは大げさかもしれない。けど、柔らかいものじゃない。少なくとも、石や木に簡単に負ける身体じゃなさそうだ。 目の前にあった小石を、恐る恐る押してみる。ころん、と転がるだけで、俺の方は少しもへこまない。 「もしかして、これ……弾ける?」 試したくなって、俺は小さな枝をめがけて跳んだ。ぶつかる。跳ね返る。痛みはない。むしろ、反発する力の方が強い。 これは、生き残るための武器だ。 そう思った次の瞬間、頭上でぱさりと音がした。 見上げると、木の枝の間から木の実がひとつ、落ちてくる。 慌てて避けようとしたが、間に合わない。 なら、と俺は反射的に跳ねた。 ぽん。 木の実が、俺に当たる直前で跳ね返り、泉の縁の平らな石に弾かれて転がった。 「おお……」 偶然だ。でも、偶然でも十分だ。 俺は石の上に転がった木の実へ近づき、もう一度跳ねてみる。今度は、狙って。ぶつける角度を、なんとなく覚える。 ぽん、こつん。 木の実が軽く割れた。 中から甘い匂いがした。 「食えるじゃん」 思わず声が漏れる。もちろん、ちゃんとした声じゃない。泉のほとりに、かすかな震えが響いただけだ。それでも、俺には十分だった。 木の実を少しずつ割りながら、俺は何度も角度を試した。強く跳ねれば遠くへ飛ぶ。浅く当てれば近くで弾く。思ったより器用に扱える。身体は不自由なのに、使い方を覚えれば、ちゃんと生きる道がある。 「よし。まずは、食う。次に、隠れる。あと……弾く」 誰に向けた言葉でもないのに、少しだけ心が軽くなった。 森はまだ怖い。だけど、俺はもう、ただ怯えているだけの塊じゃない。 泉の水面に映る小さな光を見つめながら、俺は次の木の実が落ちてこないかと、じっと枝の揺れを待った。

2章 / 全10

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