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金属スライム、森を守る

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10章 / 全10

森の朝は、騒がしさを忘れたみたいに静かだった。夜のあいだに降りた霧が草を濡らし、葉先の雫がひとつ、またひとつと落ちていく。俺は小屋の屋根から転がり降り、その冷たさを表面で受け止めた。銀灰色の体は、朝日を浴びると鈍く光る。最初はただの珍しい塊だと思っていたこの身体が、今では少しだけ誇らしい。 騒動が終わってから、森の道は少しずつ整えられた。踏み荒らされた土をならし、倒れた枝を片づけ、危ないぬかるみには石が置かれる。セリアは街と森を往復しながら、その手伝いを続けていた。薬師も見習いたちも、もう俺を見て身構えない。あの夜の混乱を越えたあとでは、金属のスライムというだけで怯える理由も薄れたのだろう。 それでも、俺の役目は変わらなかった。いや、少しだけ広がった。森の入口に立つ新しい標識の下で、街から来た荷車が止まる。そこから降りた若い商人が、まだ森に入る前に足を止めるのを見て、俺は先に転がった。ぬかるみの位置、崩れやすい根、見落としやすい石。そういうものは、触れればわかる。案内は言葉では足りないが、動けば伝わる。 商人はしばらく目で追い、やがて笑った。 「本当に道を知ってるんだな」 俺はひとつ揺れた。肯定のつもりだった。 その日の午後、セリアが街から持ち帰った小さな包みを開いた。中には、磨かれた金属片と乾いた木の実が入っている。以前も似た贈り物をもらったが、今度はひとつ違っていた。金属片の裏に、細い文字で名前が刻まれていたのだ。守り石、と。 「みんなでそう呼ぶことにしたの」 セリアは照れたように笑う。 「珍しい存在、って言い方はもう似合わないから」 胸の奥が、じんわり温かくなる。俺は人だった頃の名前をもうはっきり思い出せない。それでも、呼ばれ方ひとつで居場所が変わることは知っていた。守り石。転がるだけの身体に、そんな役目が与えられるなんて、少し可笑しい。でも悪くない。 夕方、子どもたちが小屋の前で遊んでいた。兄は木の枝を振り回し、妹は俺の周りをくるくる走る。転びそうになるたび、俺は先回りして足元の石をどかした。二人はそれを見て、毎回声を上げて笑う。 「やっぱり、きらきらはすごい」 その言葉に、初めて会った日の怯えはもうない。今はただ、信じてくれている。触れ合える姿が違っても、笑い合えるのだと知っただけで、世界はずいぶん優しく見えた。 夜になると、街と森をつなぐ灯りがひとつ、またひとつと点いた。風に弱いものは石で囲われ、雨を避ける屋根も増えた。俺はそれらを確かめながら、境目に立つ。ここは森の端であり、街の始まりでもある。どちらにも属しているようで、どちらにも完全には属さない。だが、それでいい。 不意に、遠くの木々がざわめいた。小さな獣がこちらを見て、すぐに去っていく。怖がる必要はないと、もう森が教えてくれていた。俺は静かに体を丸め、月明かりを受け止める。 逃げるために生まれたような生だった。けれど、逃げ続けた先に、守る場所があった。人と魔物のあいだでも、森と街のあいだでも、たしかに手を伸ばせる。言葉が足りなくても、形が違っても、絆は結べる。 その答えを、俺はようやく受け入れた。 小さな銀灰色の身体は、夜の道へと静かに滑り出す。森を見守り、街へつなぐために。もう珍しいだけの存在ではない。ここにいること自体が、ひとつの約束だった。

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異世界に転生したら、希少で扱いの難しい金属質のスライムとして目覚めた主人公の物語

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