エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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1章 / 全10

正門をくぐった瞬間から、空気が少しだけ違っていた。 制服のリボンを直しながら歩く一年生たち、眠そうに肩を並べる二年生たち、そのどれもが新学期特有のそわそわをまとっているのに、今日はそれに加えて妙なざわめきがあった。 「ねえ、あれ見た?」 「見た見た。式典準備の黒板」 莉帆は人波の端を抜けながら、掲示用の黒板へ視線を送った。そこには、白いチョークで大きくこう書かれている。 校長3名着任 一瞬、誰かの悪い冗談かと思った。けれど、周りの反応は冗談を聞いた顔ではない。 「三人って、どういうこと?」 「転入生の数じゃないんだから」 「え、校長先生って一人だよね」 ひそひそ声が波みたいに広がり、朝の靴音まで落ち着かなくなる。莉帆はため息をひとつ飲み込み、黒板の前に立った。白石莉帆、桜丘女子高校の生徒会長として、こういう空気を放っておくわけにはいかない。 「ちょっと確認してくる」 近くにいた新田が、肩越しに苦笑した。 「やっぱり行くんだ」 「行かない理由がないでしょ」 職員室へ向かう廊下は、まだ始業前だというのに妙に長く感じられた。扉の向こうからは、プリントをめくる音や、椅子が床を擦る音が漏れてくる。莉帆は一度だけ呼吸を整えてから、ノックした。 「失礼します」 返事より先に、視界へ飛び込んできたものがある。 並んでいる。 本当に、並んでいる。 机の向こうに立つ三人の中年男性は、服装も表情も雰囲気もばらばらだった。ひとりは背筋がまっすぐで、視線だけで空気を整えそうな厳しさを持っている。ひとりは穏やかな笑みを浮かべ、今にも茶でも勧めてきそうだ。残るひとりは、腕を組んだまま鼻息ひとつで場を押し切りそうな勢いがある。 莉帆は、開きかけた口をいったん閉じた。 「……すみません。校長先生は、三名、なんですか」 三人の視線が、同時にこちらへ向く。 「当然だ」 「いえ、私が正式です」 「いやいや、現場を任されるのは私だろう」 言葉が重なって、職員室の空気がぴたりと止まった。誰も次の一手を出せない沈黙の中、莉帆は三人の顔を順に見た。冗談ではない。黒板の落書きでもない。ここにあるのは、説明のつかない現実だ。 胸の奥がじわりと熱くなる。困惑もある。でも、それ以上に、ここで立ち止まれば本当に学校全体が転びそうだった。 莉帆は一歩だけ進み出て、まっすぐ三人を見上げた。 「なら、まず説明をお願いします。どうして、こんなことになっているのか」 三人の校長は、それぞれまるで別の答えを口にしようと、同時に息を吸い込んだ。

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