エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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2章 / 全10

「どうして、こんなことになっているのか」 莉帆の問いに、三人は見事に違う方向から息を吐いた。 「説明するまでもない。私は正式任命だ」 「いえ、正式なのは私です。書類もあります」 「書類? 現場は書類では回らないだろう」 三つの声が重なり、机の上の書類が震えた気がした。莉帆はこめかみを押さえたくなるのをこらえる。まだ朝の光が窓から斜めに差しているのに、職員室だけ別の季節に迷い込んだみたいだった。 「えっと、わかりました。じゃあ、いったん整理します」 「整理?」 「はい。三人とも校長なら、それぞれの得意分野で担当を分ければ混乱しません」 莉帆はできるだけ柔らかく言った。 「たとえば、黒田先生は規律と校内全体の統括。森先生は生徒や保護者との対話。橘先生は行事や現場対応。そうして役割を分ければ、会議も進めやすいはずです」 一瞬、空気がわずかに軽くなった。だが次の瞬間、黒田が眉を寄せる。 「分担だと? 私が統括以外を任せる理由はない」 森も困ったように笑う。 「役割分担は必要ですが、結局は一人で全体を見ないと責任が曖昧になります」 橘は腕を組み直して鼻で笑った。 「要するに、面倒を三等分しろってことか。いや、やるなら私が全部やる。早いし確実だ」 莉帆は目を細めた。 「全部、ですか」 「当然だ」 「いやいや、全部は私だろう」 「現場を知らん人間が何を言う」 また始まった。たった数秒で、提案は見事に空中分解する。莉帆は資料を持つ手に力を入れた。 「でも、このままだと会議すら始まりません。新学期初日ですよ。生徒も職員も、もう困っています」 「困るのは勝手だ」 「勝手ではありません」 「学校は一枚岩であるべきだ」 「だからこそ、私が全部やる」 言い合いは止まらない。どの言葉も自分の正しさだけを抱えていて、相手の席を少しも空けようとしなかった。 職員室の隅でコピー機が小さくうなり、誰かが取り落としたクリップが床を跳ねる音だけがやけに大きい。 莉帆は深く息を吸った。ここで引けば、学校全体がこの調子で押し切られる。 「じゃあ、こうしましょう」 三人の視線が、今度ははっきりと莉帆に集まる。 「少なくとも今日だけは、会議の進行を一人に任せてください。黒田先生は規律面、森先生は意見調整、橘先生は現場判断。そうすれば」 「却下だ」 黒田が即座に切る。 「私が議長を務める」 「いえ、議論は私が拾います」 森が穏やかに続ける。 「いや、ここは私が回す」 橘まで前へ出た。 莉帆は、目の前で三人が同時に一歩も引かないのを見て、静かに肩を落とした。 分ける案は、あまりにも早く砕けた。 誰も譲らない。誰も待たない。誰も、自分以外に任せる気がない。 これで本当に、学校が回るのだろうか。 莉帆のその不安を裏づけるように、職員室の空気はますます硬くなり、初日の朝から、校長三人分の圧だけがやたらと濃く積もっていった。

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