エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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2章 / 全10

新学期がひと月ほど過ぎたころ、三人の校長はついに本格的な会議でぶつかり合った。議題は文化祭の方針だった。老校長は伝統を重んじ、清楚で格式ある催しにすべきだと主張した。若い校長は、もっと生徒の発想を前に出し、来場者が驚くような企画を入れるべきだと言う。中堅校長は、どちらも大事だが、まず安全と導線だと譲らない。会議室の空気は、張りつめた糸のように細く、今にも切れそうだった。 だがそこで、いつものように生徒会が動いた。会長の紗季は、三人の意見を一度に通す案を持ってきたのである。講堂では伝統の演奏会を開き、中央棟では生徒たちの企画した展示を並べ、裏庭では来場者が休める茶会を設ける。老校長が講堂の挨拶を担当し、若い校長が展示の講評を行い、中堅校長が裏庭の動線と給水を見守る。三人が別々の場所で力を発揮すれば、衝突は減るはずだというのだ。 最初、校長たちは顔を見合わせた。そんな分担で学校がまとまるのかと疑う気持ちは、全員の胸にあった。それでも準備が始まると、不思議なことに歯車はかみ合い始めた。老校長が一言添えるだけで、生徒たちの演奏は背筋の伸びた美しさを帯びた。若い校長が展示の入口に短い説明文を提案すると、客の足が自然と止まった。中堅校長が雨の予報を見て机を少し動かしただけで、混雑はするりと解消した。 文化祭当日、学校はまるで別の顔を見せた。廊下には焼き菓子の甘い匂いがただよい、図書室では朗読劇の練習が響き、中庭では風に揺れる装飾が光を散らした。三人の校長はそれぞれの持ち場で忙しく、しかも楽しそうだった。老校長は厳しいはずの表情をわずかにゆるめ、若い校長は生徒の発想に目を輝かせ、中堅校長は誰よりも早く空いた椅子を見つけては次の案内を出した。 午後になると、舞台の裏で予想外の出来事が起きた。演目の切り替えが遅れ、照明係が困っていたのだ。そこへ老校長が現れ、静かな声で順番を整えた。若い校長が即座に次の演目を前倒しで組み替え、中堅校長が人の流れを見て出演者を導いた。わずかな乱れは、三人の力で見事に吸い込まれた。拍手が起こったとき、生徒たちはただ成功したからではなく、この学校らしい奇跡が起きたのだと感じていた。 閉会式で、紗季は三人に向かって頭を下げた。最初は困っていたのに、今では三人がいるからこそ学校が動いているのだと、はっきり言った。その言葉に、老校長は目を伏せ、若い校長は肩の力を抜き、中堅校長は小さく笑った。まとまらないように見えた学校は、いつのまにか一つの息をし始めていた。違う考えが並ぶたびに、そこへ生徒たちの知恵が差し込まれ、校内は以前よりもずっと活気づいていく。 その春の終わり、聖リリア女子高には、少し変わった誇りが生まれていた。校長が三人いることは、もう珍事ではない。三つの個性がぶつかり、支え合い、思いがけない形で学校を育てる。それが、この場所だけの当たり前になりつつあった。

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