春の光が、白い校舎の窓をいっせいに磨き上げていた。新学期の朝、私立聖リリア女子高の講堂は、いつもなら静かな期待で満ちるはずだった。けれどその日は、空気の質が少し違っていた。壇上に立つはずの校長が、三人いたのである。 一人目は、背筋の伸びた威厳の塊のような老校長だった。銀縁の眼鏡の奥の目は厳しく、ひとつの乱れも許さないという顔をしている。二人目は、まだ四十代半ばに見える若い校長で、改革という言葉を服のように着こなしていた。三人目は、やや丸みのある体格の中堅校長で、教室の端から廊下の隅まで知っていそうな、現場の温度をそのまま持っている男だった。 教育委員会の手違いで、三人が同じ学校に着任してしまったのだと、教頭が青ざめた声で説明した。だが説明が終わるより早く、三人の校長はそれぞれに自分の役目を見つけてしまった。 「まずは規律だ」 老校長は朝礼の進行を引き受け、姿勢と挨拶の徹底を命じた。 「まずは変化です」 若い校長は、生徒の自主性を伸ばすために、朝礼の内容を短くし、意見募集の時間を設けた。 「まずは現場を見よう」 中堅校長は、教室や職員室を歩き回り、生徒の靴箱の並びまで気にかけ始めた。 その結果、朝礼は前代未聞の三部構成になった。最初に老校長が厳粛な訓示を述べ、次に若い校長が新しい年度の目標を語り、最後に中堅校長が明日の天気と体育館の床の滑りやすさに触れる。生徒たちは最初こそ目を丸くしたが、やがて、誰が次に何を言い出すのかを楽しみに待つようになった。 ホームルームでも混乱は続いた。提出物の締切は三通りに分かれ、制服の着こなしを巡る注意は厳格さと柔軟さの間を行き来した。廊下では老校長が姿勢を正し、図書室では若い校長が新しい企画を持ちかけ、保健室の前では中堅校長が生徒の疲れた顔を見て、無理をするなと声をかける。校内のどこにいても、必ずどこかに別の校長がいる。まるで三色の風が同じ校舎を吹き抜けているようだった。 生徒たちは困惑しながらも、その奇妙さを面白がり始めた。友人同士で 「今日はどの校長に会えるかな」 と話し、校庭の隅では三人の校長の言い回しを真似る者まで出た。先生たちは胃の痛みをこらえつつも、いつしか誰が何を担当するのかを読み合うようになり、職員室には小さな連携が生まれた。 まとまらないはずの学校が、少しずつ動き出している。聖リリア女子高の春は、そんな不思議な混乱と、まだ名前のない期待を抱いたまま、ゆっくりと始まっていた。
三校長と女子高の日々
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