文化祭の朝は、校舎の空気まで少し浮き立っていた。準備本部で何度も擦り合わせたはずなのに、メインステージの幕が上がる直前になると、誰もが一段と息を詰める。 「大丈夫。予定どおりにいく」 黒田が硬く言えば、橘が肩を回して笑う。 「予定どおり、ね。そういうのは現場が一番強いんだよ」 「現場任せでは困る」 「困らせないように動くのが現場だろ」 森がその間に入り、やわらかく両手を広げた。 「まあまあ。今日は楽しんでもらう日です。まずは、成功させましょう」 その一言で、三人は不思議と同じ方向を向いた。 ステージでは、黒田が展示の要点を手際よく締め、森が来賓にも生徒にも伝わる言葉で場をつなぎ、橘が客席の熱を拾って一気に引き上げる。厳しさ、対話、勢い。そのどれもが欠けると味気ないのに、揃うと妙に迫力があった。 「校長って、三人いる意味あるの?」 誰かの冗談みたいな声に、会場のあちこちで笑いが起きる。 「あるに決まってるだろ」 橘が即答し、 「規律があるから回るんです」 と黒田が続け、 「それに、みんなで作る学校の方が楽しいでしょう」 と森が受けた。 拍手が広がり、ステージの空気はみるみる温まっていく。莉帆は司会台の脇で、それを見守りながら頭を抱えた。 「ほんと、なんなのこの学校……」 けれど次の瞬間、彼女は気づく。三人の校長が噛み合い、生徒たちが笑い、会場全体がひとつの流れで動いている。あれほど混乱の種だったはずの存在が、今は学校の勢いそのものになっていた。 閉会式に移るころ、教育委員会の代表が壇上へ立った。会場が一瞬だけ静まり返る。 「審議の結果、三名の校長を解任することは見送ります。今後は共同校長として、正式に運用します」 ざわっ、と会場が揺れた。 黒田は目を細め、森は穏やかに息を吐き、橘は満足げに口角を上げる。 「結局、こうなるんですね」 莉帆が力なくつぶやくと、新田が苦笑した。 「まあ、三人とも学校に必要ってことだろ」 「必要すぎるのが問題なのよ」 そう言いながらも、莉帆の視線は自然とステージへ戻る。三人の校長は互いに一歩も引かない顔のまま、それでも妙に息が合っていた。生徒たちも、もう不満より先に笑っている。 頭を抱えたくなる結末だった。なのに、桜丘女子高校は以前よりずっと元気だった。 莉帆は小さく息を吐き、笑ってしまった。 「……想定外だけど、これなら、まあ」 会場の拍手はなかなか止まらず、春の光の中で、騒がしい共同校長の物語はひとまず円満に幕を下ろした。
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教育委員会の手違いで校長が3人配属された女子高のコメディ
