春が戻ってきたころ、聖リリア女子高の桜は去年よりもいっそう賑やかに咲いた。花びらが校門をくぐる生徒たちの肩に落ち、そのたびに校舎の空気までやわらいでいく。あの日の混乱をまだ覚えている者も多かったが、今では三人の校長が並ぶ光景すら、学校の風景として自然に受け止められていた。 教育委員会の正式な判断は、予想以上にあっさりしていた。役割分担を明確にし、定期連携を条件に、三人の校長を特例として認める。講堂でその言葉を聞いた瞬間、生徒たちは拍手した。けれど本当に胸が熱くなったのは、そのあとだった。老校長は式典と規律を、若い校長は改革と広報を、中堅校長は日常運営と生徒対応を担う。はっきり切り分けられたことで、三人は初めて互いの得意を遠慮なく使えるようになったのだ。 朝礼では老校長が短く背筋の通る言葉を述べ、若い校長が新しい企画を告げ、中堅校長が今日の天気と体調管理を忘れぬようにと締めくくる。以前ならちぐはぐだったはずの流れが、今では妙に心地いい。生徒たちはそれを聞きながら、肩をすくめて笑い、でも最後にはきちんと姿勢を正した。 春の行事でも三人の力はよく噛み合った。老校長は入学式の空気を引き締め、若い校長は新入生歓迎企画を思い切り華やかにし、中堅校長は迷子になりそうな保護者や生徒をすかさず導いた。目立つ役割ではないが、誰かが欠けたら全体が少しずつ傾く。そう気づいたとき、紗季はこの学校の形がようやく完成したのだと思った。 放課後、職員室の扉が開いたままになっていることが増えた。老校長が若い校長の資料に目を通し、若い校長が中堅校長の指摘を素直に受け止め、中堅校長が老校長の一言で救われたようにうなずく。三人はまだ時々ぶつかる。けれど今では、その衝突さえ学校を良くするための火花に見えた。 ある日、廊下の掲示板に新しい標語が貼られた。威厳、改革、現場力。たった三つの言葉なのに、そこにはこの学校の全部が入っているようだった。生徒たちはそれを見て、誰からともなく言い合った。 うちの学校って、やっぱり変だよね。でも、誇らしいよね。 その言葉に、通りかかった紗季が笑う。変だからこそ、強いのかもしれない。そう思って振り返ると、講堂の前に三人の校長が並んでいた。老校長は厳めしい顔のまま桜を見上げ、若い校長は次の企画を考えて目を輝かせ、中堅校長は風向きを気にしながら、花びらが入り込んだ窓を閉めている。 そして誰が最初に言い出したのかは分からないが、その日から朝礼の最後に小さな掛け声が加わった。 三人そろって、聖リリア。 生徒たちは息をそろえて応え、校舎いっぱいに笑いが広がる。かつては手違いだったはずの三人の校長が、今では学校の心臓になっていた。春の光の中で、聖リリア女子高はこれからも少し変で、少し眩しく、そしてずっと明るい場所として続いていく。
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教育委員会の手違いで校長が3人配属された女子高のコメディ
