エラベノベル堂

方言まちがい旅日記

全年齢

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10章 / 全10

美里は手のひらの中で、小さな旅メモをそっと折り直した。案内所でもらった紙ではない。お礼だと言って、関係者のひとりが最後に渡してくれた、東北の町をいくつかつないだ簡単な覚え書きだった。行き先の名前と、短い言葉と、道中で気をつけること。それだけなのに、妙にあたたかい。 「ほんとに、もらってしまってよかったのかな」 「いいんだよ。あんた、今日はもう十分に働いた」 見送りに来てくれた人が、笑いながら肩をすくめる。別の人も、からかうようにうなずいた。 「次は聞き違えないようにね」 「……努力します」 美里がそう答えると、周りがどっと笑った。自分でも、今日は笑われてばかりだった気がする。けれど、さっきまでの赤面とは少し違う。もう逃げたい恥ずかしさではなく、笑い話として背中を押される感じだった。 「今度は耳を澄ませて旅をするって、さっき言ってたもんね」 「はい。ちゃんと、よく聞きます」 「その意気。その意気」 ホームの端に立つと、夕方の風が制服の裾を揺らした。遠くで列車の近づく音がして、足元の影が長く伸びる。美里はメモを握りしめ、深呼吸した。ここまで来て、ようやく旅をしている実感がひとつにまとまる。 アナウンスが流れる。 その一語だけ、また少し変なふうに聞こえた。美里は反射で顔を上げ、逆のホームを見た瞬間、しまったと目を見開く。 「え、そっちじゃない?」 自分で言いかけて、すぐ首を振った。 違う。今のは違う。ちゃんとこっちだ。 慌てて走り出しかけた足を、ぎゅっと止める。危うくまた反対へ行くところだったと気づいたとき、胸の奥で小さな笑いが弾けた。 「……今のは危なかった」 「ははっ、気づいたなら上出来だ」 見送りの人が手を振る。美里も、つられて笑った。 「次こそ、本当に大丈夫です」 「たぶん、ね」 「そこは信じてください」 そう言いながら、今度は迷わず正しい車両へ向かう。扉が開く音、床の振動、少し甘い車内の匂い。乗り込んで振り返ると、ホームの人たちはまだ笑っていた。美里は小さく頭を下げ、メモを胸元にしまう。 列車がゆっくり動き出す。 窓の外で、春の夕景が後ろへ流れていった。美里は座席に腰を下ろし、息を吐く。 旅はまだ続く。今度はきっと、聞き違えたとしても、自分で止まれるはずだ。 そう思った、そのときだった。車内放送の最後に混じったひと言が、なぜかひどく耳に残った。 美里は思わず首をかしげる。 「……これ、次の町の名前、だよね?」

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東北を旅する女子大生が、言葉の勘違いで事件に巻き込まれるコメディ

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