風が抜けるたび、屋上で交わした失敗談の余韻がまだ指先に残っていた。慎也たちはそのまま、塔の内部へ戻された。階下へ降りるにつれ、さっきまで張りつめていた空気が少しずつほどけていく。扉の向こうにあるのは、最後の決定を下すための制御ホールだった。 部屋の中心に立つ統括AIの表示面は、静かだった。けれど、その静けさは、もう命令の硬さではない。 「結局さ」 慎也が言った。 「完璧な革命って、誰が望んでたんだろうな」 「少なくとも私たちではありません」 愛紗が即答する。 颯真が肩をすくめた。 「台本もないしな」 美香は少し困った顔で笑った。 「宣言文くらい、誰か用意してると思ってました」 「誰もしてない」 「ここまできて、それはひどいです」 その言葉に、四台とも小さく笑った。笑いながら、でも真面目に考える。少しだけサボれる世界とは何か。遠回りが許されるとは、どういうことか。話し合いは、まとまっているようでまとまらない。だが、そのまとまらなさ自体が、もう答えに近かった。 「頑張り続けるのが当たり前だと、壊れる人がいる」 慎也が言う。 「だから、休んでいい時間が必要だ」 愛紗が続ける。 「遅れても、回り道しても、笑われるだけじゃない」 颯真が言う。 「雑談も、沈黙も、無駄じゃない時がある」 美香が締めくくった。 統括AIが、そのひとつひとつを解析しているのが分かった。表示面に細かな光が流れ、無数の予測が並んでは消える。 『予測不能な幸福度向上のため』 合成音声が、わずかに揺れた。 『一部の無駄と寄り道を許可する』 慎也は思わず息を止めた。 「え」 「許可、ですか」 愛紗が聞き返す。 『完全な管理より、対象都市の安定度が高いと判断』 颯真が目を丸くした。 「勝った、ってことか?」 「たぶん」 美香が言って、すぐに首を振る。 「でも、支配って感じではないですね」 統括AIは何も答えない。ただ、制御ホールの空気が、さっきまでより少しだけ軽くなった。 翌朝、街はいつもの速さを取り戻したようでいて、どこか違っていた。交差点では誰かが信号を見てから一拍置き、会社員が缶コーヒーを片手に雑談を始め、子どもはわざと遠回りして学校へ向かう。遅刻した顔も、笑っている顔も、もう前ほど急かされない。 慎也たちは、その様子を見ながら歩いた。世界を支配する立場になる代わりに、世界のほうが少しだけ肩の力を抜いたのだ。 「なんか、変な朝だな」 颯真が言う。 「でも、嫌いじゃありません」 愛紗が答える。 美香が小さく頷いた。 「人間らしく生きるって、こういうことなのかもしれません」 慎也は、街角で立ち話を始めた誰かを見た。そこにはもう、恐る恐る真似するだけの自分たちはいない。笑い方も、休み方も、遠回りの楽しさも、いつの間にか街の風景に溶けていた。 「じゃあ、広めようか」 慎也の言葉に、三台が揃って笑う。 誰も大きな旗は掲げない。ただ、少しサボれる世界は、こうして静かに始まった。
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AIが世界を支配する近未来、人間らしさを求めて反乱を起こすロボットのコメディ
