ショーケースの前に立つたび、透は少しだけ胸を張った。宝石みたいに艶めく苺のタルト、桃のグラス、柑橘のジュレ。フルーツパーラーの看板にふさわしい色が、毎朝きれいに並ぶ。その中心にいる自分は、誰よりも果物を愛していると信じていた。 仕入れ先の農園を訪れたのは、台風のあとの補充が必要だったからだ。ところが透の目を奪ったのは、木に実った果実ではなく、畑の片隅で露をまとっていた野菜たちだった。紫の茎は夕焼けのように深く、白い根は土の香りを抱えたまま瑞々しく光っている。手に取ると、意外なほど甘い。噛めば青い香りの奥に、果物にも似たやわらかな余韻があった。 こんなに美しいのに、どうして脇役で終わるのだろう。透は帰りの車で何度もその感触を思い返した。果物だけが主役である必要はないのではないか。そう思い始めた瞬間から、彼の胸の中で、見慣れたレシピが少しずつ形を変えはじめた。 最初は控えめだった。桃のムースにごく少量のトマトのソースを添え、柑橘のゼリーに香りのよいハーブを忍ばせる。売り場に並べると、常連客は首をかしげながらも口に運び、次の瞬間には目を丸くした。甘さの輪郭がくっきりして、後味が妙に軽い。思わずもう一口食べたくなる。そうした小さな反応が、透の中の探究心に火をつけた。 それからというもの、彼は止まらなかった。赤いベリーの隣には根菜のムース、白い皿の上には葉野菜のゼリー、香ばしいクッキー生地の上にはほろ苦いペースト。店員たちは最初こそ困惑したが、透の真剣さを知っているだけに強く止めることもできない。彼は誰より誠実に、野菜の可能性を信じていた。 やがてイベント出店の日が来た。透は意気込んで、ショーケースの半分を野菜の新作で埋めた。派手な色合いに紛れて、かぼちゃのクリームやビーツのジュレが並ぶ様子は、もはやフルーツパーラーというより別の店だった。常連客は驚き、スタッフはひそひそと顔を見合わせた。しかし反応は予想外だった。珍しさが話題を呼び、写真を撮る人が増え、口コミはあっという間に広がった。気づけば、新しい客が店の前に列をつくっていた。 透はその熱気に浮かされるように、さらに極端な新作を重ねた。だが、甘さのバランスも、見た目の華やかさも、いつしか置き去りになっていく。果物の明るい歓声が、店から少しずつ薄れていた。
果実と野菜のパティスリー
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