笑いがひと段落したあとも、会場の熱はなかなか冷めなかった。真央は特設テーブルの前で、崩れかけた盛り付けを見下ろしていたが、ふっと息を吐くと、両手をそっとかざした。 「……これ、直します」 「おう、今度は山じゃなくて、ちゃんと道にしろよ」 店長の軽口に、周囲からまた小さな笑いが漏れる。真央は耳を赤くしながら、でも今度は逃げなかった。皿の上の野菜の重なりは、ただの失敗に見えていたはずなのに、目を凝らすと妙に面白い。高く積まれた層の間に、果物の色が隠れている。その発見だけで、胸の奥がひとつ鳴った。 「山っていうより、段差ですね」 「言い換えたな」 「だって、崩すのがもったいないです」 真央はスプーンを取り、野菜の山の脇へ果物のソースを流した。鮮やかな色が細い道のようにのび、重なった層の隙間へ染み込んでいく。続けて、果物の酸味をきかせたクリームを添えると、野菜の厚みが急にやわらいだ。 「あ……」 自分の口から、驚きの声がこぼれる。さっきまで笑いを誘っていた盛り付けが、今はきちんとひと皿の景色になっていた。奇抜さはそのままなのに、食べる前から味の流れが見える。 店長が目を細める。 「そうそう、それだ」 「え?」 「踏み外したんじゃない。真央は、道を増やしたんだ」 その言葉に、真央はじっとスプーンを見つめた。野菜だけを追いかけていたときは、果物を脇へ置くことが前進だと思っていた。けれど違う。野菜が教えてくれたのは、果物を捨てることではなく、果物の見え方を変えることだった。 「私……道を外れたんじゃなかったんですね」 「やっと気づいたか」 「新しい道を、見つけただけ……」 言いながら、真央はふっと笑った。肩の力が抜ける。野菜の甘みも、果物の酸も、どちらも消えていない。ただ、並ぶ場所が変わっただけで、こんなにも景色が違う。 一口食べた客が、目を丸くして頷いた。 「これ、すごい。最初は驚いたけど、ちゃんとおいしい」 「野菜が前に出てるのに、ちゃんとデザートだ」 「見た目の勢いと味の上品さ、両方あるね」 ひとつ、またひとつと感想が重なるたび、真央の胸は熱くなった。笑い取れた盛り付けは、もう笑われるだけのものじゃない。驚きの入口であり、味へ連れていく案内板だった。 店長が腕を組み、得意げに頷く。 「ほらな。あれだけ盛った甲斐があった」 「そこを誇らしげに言わないでください」 「でも結果は大成功だ」 真央は照れ隠しに視線を逸らし、それから完成した新作パフェを見直した。フルーツの輝きのあいだに、野菜のやわらかな色が重なっている。奇妙なのに、きれいで、しかも食べやすい。 「……これなら、いける」 そのつぶやきは、誰に向けたものでもない。でも店長は聞こえたらしく、満足そうに口元を緩めた。 拍手が、ぽつりぽつりと起こる。やがてそれは、会場全体へ広がっていった。真央は胸の前でスプーンを握りしめ、笑いと拍手の渦の中で、まっすぐ前を見た。
検閲済みプロット
フルーツパーラーで働くパティシエが、野菜の魅力に目覚めて新しい道へ踏み出してしまうコメディ
