商店街のイベント会場は、夕方の熱気と人いきれで少しむっとしていた。屋台の呼び込みや子どもの笑い声が交じる中、真央は簡易の実演台の前で、完成間近の器をそっと抱え直す。店長が横で小さくうなずいた。 「緊張してるか」 「してます。でも、今日は逃げません」 真央はそう言って、器の縁を指で確かめた。果物の酸味と野菜のコクをつなぐために、何度も練り直した試作品だ。見た目は派手でも、口に入れればするりとまとまるはずだった。 「じゃあ、いつも通りやれ」 「いつも通りって、どのくらい雑に聞こえますか」 「今のお前にはちょうどいい」 真央はむっとしながらも、思わず笑った。その笑いで少し肩の力が抜ける。周囲には、子ども連れから年配の客まで、興味津々の顔が集まっていた。 「これ、何のお菓子?」 小さな女の子が身を乗り出す。 「デザートです。果物と野菜を一緒に使ってます」 「えー、野菜?」 「食べたらびっくりしますよ」 真央はスプーンを手に取り、実演を始めた。まず果物のソースを薄く広げ、その上に野菜のクリームを重ねる。さらに色を足し、香りを閉じ込める。手つきはもう迷っていない。会場の視線が、皿の上に吸い寄せられていくのが分かった。 「きれいだな」 誰かが感心したようにつぶやく。 「ほんとに食べ物なのか」 「食べ物です。ちゃんと、甘いです」 真央が胸を張った、その瞬間だった。最後の仕上げで載せるはずの野菜を、うっかり多く掬いすぎる。ひとつ、またひとつと重なっていき、皿の上はみるみる小さな山みたいになってしまった。 「あっ」 真央の声が裏返る。 店長が一歩だけ前に出たが、止める前に会場の空気がふっと弾けた。 「山だ」 子どもの声が先に上がり、次の瞬間には大人たちまで吹き出していた。 「なんだこれ、かわいい」 「盛りすぎだろ」 「でも、おいしそうに見えるのがずるい」 真央は耳まで赤くなりながら、皿の上の小さな山を見つめた。失敗した、と思った。なのに、笑われているのが嫌じゃない。むしろ、張りつめていたものが一気にほどけていく。 「真央」 店長が肩を揺らして言う。 「これはこれで、覚えられるぞ」 「慰めになってません」 「慰めじゃない。事実だ」 観客の笑いはやさしく広がり、会場の空気はどこか温かくなった。真央は悔しさと照れで顔を伏せ、それでも皿の山を崩さないようにそっと支える。 「……次は、気をつけます」 「その前に、その山をどう見せるか考えろ」 店長の言葉に、真央ははっと顔を上げた。笑いに包まれたまま、皿の上の盛り付けはまだそこにある。予想外の形になったそれが、なぜか次の一手を待っているように見えた。
果実と野菜のパティスリー
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