エラベノベル堂

大賢者の再起

全年齢

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10章 / 全10

朝の冷えがまだ丘の草に残っていた。夜の名残を吸った土はしっとりと重く、遠くの王都だけが、何事もなかったように静かに横たわっている。だが、その静けさの上に、広場で見た恐怖の残響と、救われた人々の熱気が薄く漂っていた。 「ほんとに、行っちまうのかよ」 背後から聞こえた声に、俺は振り返った。奏多が、少し息を切らせながら立っている。寝不足の目だが、いつもの軽口だけはまだ死んでいない。 「称賛なら、逃げなくてもよかったんじゃないか?」 「いらない」 即答すると、奏多は苦笑した。 「即答かよ。まあ、らしいけどさ。王都中、いや、今朝の時点じゃ周辺まで、お前の話で持ちきりだ。なのに本人は雲隠れか」 「持ち上げられるのは性に合わない」 「知ってる」 俺は肩に掛けた袋を軽く持ち上げた。中身は少ない。必要なものだけだ。目立つ荷物は捨て、残すべきものだけを選んだ。いまの俺に、派手な看板は要らない。 奏多はその袋を見て、少しだけ目を細める。 「本当に、全部置いてくつもりなのか」 「全部じゃない」 俺は胸元を押さえた。そこにあるのは、あの鍵ではない。今朝までに書きつけておいた記録帳の重みだ。 「これは持っていけ」 俺は一冊の記録帳を差し出した。古い理論の要点、封印の見方、魔力の乱れを読む手順、そして今回の災厄で見えた癖まで。誰かが次に同じ壁へぶつかった時、最初から遠回りしなくて済むように。 奏多は受け取って、ぱらぱらと頁をめくる。目がすぐに真剣になる。 「……こんなの、ただのメモじゃないだろ」 「記録だ。忘れないためのな」 「お前が残すのか」 「俺じゃなくてもいい」 その言葉に、奏多は一瞬だけ言葉を失った。 俺は丘の下を見下ろした。王都の屋根の向こうで、朝日が少しずつ石の色を変えていく。昨日まで、あの街を守るのは自分しかいない気がしていた。けれど、もう違う。 「次の時代は、俺じゃない」 声にすると、不思議なほど軽かった。 「お前たちの番だ。若いやつが覚えて、引き継いで、守っていく。そういう流れにしないと、何度でも同じことが起きる」 奏多は記録帳を強く抱えた。 「……急に、年寄りくさいこと言うなよ」 「事実だ」 「でもさ」 彼は笑った。少し悔しそうで、でも嬉しそうでもある顔だった。 「そういうの、嫌いじゃない」 俺も、ほんの少しだけ口元を緩める。 「なら、任せる」 「任された。……って言いたいけど、お前、ほんとに行くのか」 「ああ」 俺は踵を返した。背後で風が草を鳴らす。丘の上からの景色は、朝の光のせいか、どこかやわらかく見えた。 「また会えるのかよ」 奏多の問いに、俺は足を止めずに答える。 「さあな」 振り返れば、あいつはまだそこにいる。記録帳を胸に、次の一歩を考える顔で。 それだけで十分だった。 俺は微笑んだまま、静かな丘を下り始めた。

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転生したら大賢者として目覚め、前世の記憶と知識を活かして新しい世界で静かに生きながら、人々を助けていく物語にしてください。

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