エラベノベル堂

モンスター園の給食担当

全年齢

小説ID: cmnfnwjta002v01o7n83tpfu9

10章 / 全10

食堂に灯った明かりが、磨かれた食器の縁をやわらかく照らしていた。夕方の名残を引きずったざわめきのなか、久美子は入口で足を止める。 「……え?」 長机の上には、見たことのない小さな皿がずらりと並んでいた。ふわりと甘い香り。上には、星みたいに輝く果物や、雲みたいに軽いクリームがちょこんと乗っている。 「せんせい、こっち! まだ見ちゃだめ!」 「ちゃんと目つぶってた? つぶってたよね?」 「ぼく、落とさないように運んだ!」 園児たちが次々に飛び出してきて、久美子の背中を入口から押すように促す。小さな手、小さな羽、小さな尻尾が、いつもの騒がしさより少しだけ誇らしげに揺れていた。 「これ、みんなで作ったの?」 「そう! せんせいにないしょで!」 久美子は思わず笑ってしまう。食後にこんなものを用意されるなんて、想像もしていなかった。 「すごいじゃない。ありがとう。でも、こんなに綺麗にできるなんて――」 「へへ、じつはね」 ひとりが胸を張った、その時だった。 「その祝い菓子、実は私の仕込みですよ」 落ち着いた声に、食堂の空気がぴたりと止まる。振り向くと、園長がいつの間にか壁際に立っていた。 「えっ、園長先生?」 「厨房の冒険記念です。皆で今日を乗り切ったお祝いに、少しだけ手を貸しました」 「ずるい! 園長せんせい、ぜんぶ知ってたの?」 「もちろん。久美子さんが驚く顔も、ちゃんと想定していました」 「最初から見守られてたってこと……?」 久美子は目をぱちぱちさせ、それから吹き出した。園児たちもつられて笑い出し、食堂の天井まで笑い声が跳ねる。 「もう、完全にやられたわ」 「でも、せんせい、よろこんだ!」 「ええ、とっても」 久美子は皿を受け取ると、ひと口だけ甘さを確かめた。やさしい果実の酸味が広がって、今日一日の緊張がふっとほどける。 「おいしい……。こんなふうに迎えてもらえるなんて、思わなかった」 園長が静かにうなずく。 「あなたはもう、ここでなくてはならない人ですよ」 その言葉に、久美子は少しだけ目を伏せた。照れくさいのに、胸の奥が温かい。 「なら、明日も頑張らないとね。今度は、もっとみんなが食べやすくて、もっと楽しくなる工夫を考える」 「またやるの?」 「もちろん。厨房は一度で終わらないから」 園児たちが一斉に歓声を上げる。その真ん中で、久美子は笑った。見守られていた驚きよりも、ここで続けていける確かな手応えのほうが大きい。 厨房の冒険は、祝宴の甘い余韻を残したまま、静かに次の日へつながっていた。

検閲済みプロット

モンスターたちが通う幼稚園。そこで給食担当が個性豊かな園児たちに振り回されながらも、工夫して日々を乗り越える冒険物語

10章 / 全10

TOPへ