エラベノベル堂

モンスター園の給食担当

全年齢

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2章 / 全10

「わあ、ほんとに食べるの?」 「こっち、つめたいのがいい!」 「やわらかいの、ある?」 久美子は押し寄せる声に負けないよう、鍋の蓋をそっと持ち上げた。湯気の向こうで、園児たちの目が一斉に輝く。さっきまで厨房に満ちていた甘い匂いが、今はもっと騒がしく、もっと生き物みたいにうねっている。 「あるよ。けど、みんな同じじゃないの。たとえば、冷たいのが好きな子には、少し冷ましてから。やわらかいのしか食べられない子には、つぶして食べやすくする。見ててね」 手早く皿を並べ、久美子は食材を少しずつ分けていく。色のきれいなものは小さく、香りの強いものは控えめに。ひとつの鍋からでも、盛り付け方で顔つきが変わるのがわかった。 「おおー」 「おいしそう!」 「それ、ぼくにも!」 反応はすぐ返ってきた。冷ました具を先に差し出すと、ひんやりしたものが好きな子は耳までぴんと立てて喜ぶ。やわらかく整えた皿を前にすると、口の小さな子が安心したように笑う。久美子は胸の奥で、少しだけ手応えを感じた。 けれど、好奇心はその何倍も速かった。 「うえにものぼれるかな?」 「ぼく、ここすき!」 気づいた時には、ひとりが配膳台によじ登り、別の子が鍋の蓋をすっぽり頭にはめていた。金属の丸い輪っかが帽子みたいに傾いて、本人は得意げに胸を張る。 「ちょっと待って、そこは座る場所じゃないよ!」 「へへ、ひかる!」 「ひかるけど、食べ物じゃないからね!」 久美子は慌てて手を伸ばし、配膳台の端に足をかけた子を抱き下ろす。だが次の瞬間には、別の子が小皿のふちをつついて、さらにその隣ではスプーンを積み木のように重ね始めていた。 「だめ、だめ。みんな、これから食べるものだから、遊ぶのは――」 言いかけて、久美子ははっとする。注意するだけでは、もう追いつかない。園児たちの目は悪気ではなく、ただ面白いから動いている。だったら、守り方を変えるしかない。 久美子は配膳台のそばに立ち、ひとつ深く息を吸った。 「よし、決めた。これからは、お皿は並べる場所を分ける。ふたはここ、食べるものはここ。みんなが触りたくなるものは、最初から見やすくして、でも勝手にひっくり返せないようにする」 言葉にしながら、自分でも輪郭が見えてくる。 「配る前に、ひとつずつ置き方を変えればいい。食べやすい子の前には低く、冷たいものは冷たいまま、崩れやすいものは手前に寄せる。これなら、少しは守れる」 「まもる?」 園児のひとりが首をかしげる。久美子は笑ってうなずいた。 「そう。おいしいまま、ちゃんと食べるためにね」 鍋の蓋を帽子にしていた子が、今度は真面目な顔でそれを両手で差し出してくる。久美子は受け取り、配膳台の横へ丁寧に置いた。 混乱の真ん中で、ようやく最初の工夫が形になり始めていた。

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