エラベノベル堂

モンスター園の給食担当

全年齢

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3章 / 全10

その日の午後、園庭の端にある畑で、ぼくは子どもたちと泥だらけになっていた。朝の給食で使うための香草を摘みに行くはずが、なぜか収穫はいつも遊びに変わる。芽を踏まないように歩く子、土をかぶると色が変わる子、根を見つけるたびに小さく歓声を上げる子。静かな作業のはずなのに、園の中でいちばんにぎやかな場所になっていた。 ぼくは小さな籠を抱えながら、葉の形を確かめた。香りの強いものは少量で十分だが、好き嫌いの激しい子には大事な目印になる。甘い匂いを好む子には蜜のような茎を、土の匂いが落ち着く子には根に近い部分を。毎日が試行錯誤で、失敗も多い。だが、失敗するときほど、子どもたちはよく見ている。 「せんせい、これ、にがくない?」 羽の子が摘んだ葉を差し出す。ぼくは少しだけ噛んでみて、首をかしげた。 「少し苦い。でも、スープに入れるとちょうどいいかも」 その一言で、周りの子たちが一斉に真似をした。苦手そうな顔をしながらも、自分の舌で確かめようとする。昨日まで皿を避けていた子が、今日は自分から選び、確かめ、並べている。その変化はほんのわずかだが、ぼくには何より大きく見えた。 園長が畑の外から声をかけた。 「今夜は試食会にしようか。みんなで集めたものを、みんなで食べる」 子どもたちは耳や角や尻尾をぴんと立てた。試食会という言葉だけで、すでに料理の匂いを想像しているらしい。ぼくは籠を抱え直し、厨房へ戻ろうとした。そのとき、畑の奥で土がふるえた。 最初は風かと思った。けれど、違った。畝のあいだから、見慣れない白い花が一斉に咲き、そこに隠れていた小さな光がふわりと浮かび上がったのだ。子どもたちが息をのむ。光は一つ、また一つと集まり、丸い影を形づくっていく。 「わあ」 誰かがつぶやいた。 やがてそれは、食材でも道具でもない、見たことのない器のような輪郭になった。中は空っぽなのに、そこに温かい何かが満ちている気がした。ぼくがそっと手を伸ばすと、輪の内側で香草の匂いがふっと膨らみ、摘みたての葉が一斉に揺れた。 園長が低く笑う。 「どうやら、畑はまだ秘密を隠しているらしい」 その夜、厨房では予定よりずっと多くの皿が並んだ。子どもたちが摘んだ香草で仕立てたスープ、根菜のやわらかな煮込み、薄く焼いたパン、甘い汁をからめた果実。みんなで運び、みんなで分け、少しずつ味見するたびに、笑い声が広がっていく。食べるのが遅い子も、今日は誰より先に自分の皿を受け取り、慎重にひと口食べてから、目を丸くした。 「おいしい」 そのひと言で、厨房の空気がやわらかくほどけた。 ぼくは湯気の向こうに子どもたちの顔を見ながら、あの光の輪を思い出していた。畑の奥で見つけたあれが何だったのか、まだわからない。けれど、わからないままでもいい気がした。ここでは、食事はいつも少しだけ先へ連れていってくれる。 明日はまた、何かが足りなくなるかもしれない。けれど、そのたびに誰かが手を貸し、誰かが食べ、誰かが笑うのだろう。ぼくはエプロンの紐を結び直し、次の鍋の火を見つめた。幼稚園の夜はまだ静かではない。だがその騒がしさこそが、ぼくにとってはもう、帰る場所の音になっていた。

3章 / 全10

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