「みんな、ちょっとこっちに集まってくれる?」 久美子が中庭へ声をかけると、さっきまで走り回っていた園児たちが、わらわらと日なたの円の中へ寄ってきた。芝生の上に影が重なって、角や羽やしっぽが、陽ざしを受けていっせいに揺れる。 「なにするの?」 「たべもの?」 「おなかすいた、でもすこしまだ!」 「うん、食べる前にね、大事なお約束をしたいの」 久美子はしゃがみ、目線をそろえるように笑った。手のひらを見せて、ゆっくり言葉を選ぶ。 「ごはんは、走りながら奪ったり、積み木みたいにしたりすると、悲しむの。食べる人の体も、作る人の気持ちも、どっちも大切だからね」 「かなしいの?」 大きな目をした子が、首を傾げる。久美子はうなずいた。 「そう。だから、ていねいに持つ。順番を守る。自分に合うものを、ちゃんと選ぶ。そうしたら、みんなが気持ちよく食べられるでしょう」 「わかった!」 「やくそくだ!」 返事は元気だった。けれど、久美子はすぐに気づく。うなずいてはいるのに、どこかふわふわした空気のままなのだ。言葉だけでは、まだ届ききっていない。 「……じゃあ、見てわかる形にしよう」 久美子は厨房から持ってきた紙を広げ、園児たちの前で色と形を切り分け始めた。丸、三角、四角。赤、青、黄。ふちを星形にしたものにはやわらかい料理、涼しい色の札には冷たいもの、にじむ模様には汁気のあるもの。見た目が楽しくて、手に取る前から自分に合う皿がわかるように。 「これ、なに?」 「給食札よ。食べたいものを選ぶ目印」 「えらべるの?」 「えらべる。ちゃんと順番もわかるようにするから、さわる前に見てね」 園児たちは一斉に札へ顔を寄せた。鼻先でくんくん匂いを確かめる子、羽先でそっと触れて形を覚える子、じっと色を見比べる子。今度は、騒がしさの中に小さな集中が混じっていく。 「これ、ぼくの!」 「こっちはつめたいのだ!」 「じゃあ、こっちを先にとる!」 久美子は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。止めるための工夫じゃない。選べるようにする工夫だ。叱るより、わかるようにするほうが早い。いや、早いだけじゃない。うれしい。 「よし、その調子。食べ物を大事にするっていうのは、我慢することだけじゃないの。ちゃんと見て、ちゃんと選んで、ちゃんと食べること」 その時、ひとりの園児が札を両手で持ち上げて、得意げに久美子へ見せた。 「せんせい、これならまちがえない!」 「ええ。まちがえないようにするんじゃなくて、まちがえにくくするの。みんなでね」 園児たちは 「みんなで!」 と口々に復唱した。中庭に、紙のすれる音と小さな笑い声が散る。久美子は並んだ札を見渡して、ふっと息を吐いた。 これなら、次はもっと落ち着いて配れそうだ。けれど、その先でまた何が起きるのかは、まだ誰にもわからなかった。
モンスター園の給食担当
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