放課後の図書室は、昼間のざわめきが嘘みたいに静かだった。拓海は机に頬杖をつき、スマホのメモ画面を何度も見返す。aaaaaaafdgdg。指先でなぞっても、やっぱり意味は浮かばない。 「逆に読んでみるか……」 小さくつぶやいて、拓海は頭の中で並びをひっくり返した。gdgdfaaaaaaa。余計にわからない。今度は区切る。aaaaaa a f dg dg。適当に切ってみても、ただの崩れた音の塊にしか見えなかった。 「暗号、ってほどでもないよな……」 それでも、ただの誤入力で片づけるには、胸の奥が妙にざわつく。ページをめくる音、空調の低い唸り。そんな中で、自分だけが取り残されたみたいだった。 「困ってるの?」 突然かかった声に、拓海は肩を跳ねさせた。振り向くと、カウンターの向こうで司書の瑠奈がこちらを見ている。落ち着いた声なのに、目だけはよく周囲を見ていた。 「あ、すみません。ちょっと変な文字列があって」 「変な文字列?」 拓海がスマホを少しだけ見せると、瑠奈は眉を寄せたあと、ふっと本棚の奥へ視線をやった。 「こういうの、古い地域新聞の欄外広告に紛れていることがあるわ。遊び半分の合図とか、内輪だけの言葉とか」 「新聞の広告に?」 「ええ。もし気になるなら、あっちの棚」 瑠奈が案内したのは、背表紙が色あせた古い新聞の束が並ぶ一角だった。指で示された棚は、今の拓海には存在感の薄いはずの紙の海に見えるのに、妙に圧があった。 「ここ、地域新聞の保存分。昔の欄外まで見れば、似た雰囲気のものがあるかもしれない」 拓海は頷いて、慎重に一冊を抜き取った。黄ばんだ紙の匂いが、指先にうっすら移る。 「ありがとうございます。なんだか、ほんとに手がかりっぽくなってきました」 「気のせいじゃないといいわね」 瑠奈はそう言って、少しだけ口元をやわらげた。 拓海は新聞の余白を追いながら、メモの文字列をもう一度思い浮かべる。さっきまでただの違和感だったものが、今は小さな入口に見えた。誰かが残したのかもしれない。そんな考えが、まだ形にならないまま、静かに胸の中で膨らんでいく。
断片を結ぶ町
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