エラベノベル堂

卵かけご飯論争部

全年齢

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1章 / 全10

放課後の弁論部室では、毎日同じ題目が熱を帯びていた。卵かけご飯はぜいたくか。誰が聞けば冗談にしか思えない議題を、彼らは誰より真剣に扱う。部長の真白は机を指先で叩きながら、安価だからこそ日常の尊さが光ると主張し、副部長の悠は、手軽さの裏に卵と米と醤油がそろう幸運があるなら、それは十分ぜいたくだと返す。三年生の奏は栄養学の観点から語り、一年の蒼は炊きたての湯気の描写だけで観客の心をつかもうとする。議論は細部へ細部へと潜り込み、結論はいつも少しだけ先送りにされた。 外から見れば奇妙でも、部員たちはその時間を愛していた。言葉を磨くたびに、相手の癖や弱さが見えてくる。勝ち負けだけでは終わらない討論のあと、誰かが差し出す缶茶の温かさで、負けた側も不思議と救われるのだった。そんなある日の夕方、校舎裏で蒼が小さな鳴き声を聞いた。茂みを分けると、そこには土にまみれたニワトリが一羽、きょとんと首を傾げて立っていた。 真白は目を丸くし、悠は 「証人だ」 と訳のわからないことを言い、奏はすぐさま水を探しに走った。どこかの飼育場から迷い込んだらしいその鳥は、怯えてはいたが、差し出された手から逃げようとはしなかった。部員たちは顔を見合わせ、結局その夜だけでも面倒を見ることに決める。いつもは言葉で戦う彼らが、初めて同じ方向を向いた瞬間だった。 部室の片隅で、ニワトリは静かに羽を整えた。窓の外では夕焼けが沈み、机の上には討論の記録と、誰かが持ってきた卵がひとつ置かれている。真白はそれを見つめながら、まだ答えの出ない問いが、急に手触りを持ちはじめた気がした。卵かけご飯はぜいたくか。たぶん、その答えは今夜の鳥のまなざしの中にある。

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